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8-2 打ち上げ
一旦屋敷に帰り、着用したドレスともらった花束の手入れを頼み、彼のマンションへ行く。
学園祭があっても今日はまだ土曜日の夕方。彼と過ごせる大切な時間だ。
緊張で汗をかいていたので先にシャワーを浴びさせてもらうと夕食が出来ていた。
「簡単なものだけど」
鎌倉でも食べた私の好きなウニのクリームパスタと生ハムのサラダ。好物を覚えてくれていて嬉しい。
食後「休んでていいよ」という言葉に甘えてソファで今日の演奏会について振り返る。
なんだか終わった実感がなく、皆の演奏、自分の演奏、客席からの拍手、後輩友人そして彼からの花束。今日一日あった出来事がぐるぐる頭を巡る。
「ね、二人で打ち上げしない?」
顔を上げると彼がお酒のボトルを持っていた。
「それシャンパン?」
「うん。オケ部の打ち上げ行かなかったでしょ。彩音はまだお酒飲んだことないし、いい機会かなって」
打ち上げは誘われたが「家が厳しいので」といって断った。
お酒の席は何があるかわからない。まだ一口もお酒を飲んだことが無かったので遠慮させてもらった。
「うん、飲んでみる」
ボトルを傾け少しだけグラスにつぎ渡してくれた。
「ちょっとずつね。まだ自分の量はわからないだろうから」
「ふふ、気を付けます」
彼も自分のグラスにシャンパンをついだ。
「演奏素晴らしかった。お疲れ様」
彼がグラスをぶつけてきてカツンと音が鳴る。
匂いを嗅ぐとアルコールの匂いが鼻をかすめた。グラスに口をつける。
「あーお酒ってこう言う味なのね。最初普通の炭酸飲料みたいと思ったら後から苦味や深みが追いかけてくる」
「美味しい?」
「奥深いな、とは思うけど美味しいかはわからない」
「そっか。甘いと飲みすぎちゃうかなと思って少し辛口のものにしたんだ」
「心配症ね。ありがとう」
顔を見合わせてくすくす笑う。
「今日の演奏、本当に感動した。特に愛の夢、なんか出会ってから今までの彩音を思い出しちゃって感慨深かったよ」
私はグラスを置いて彼の方に体を向ける。
「本当?実はあなたのこと思いながら弾いてたの。聴きに来てくれるって言ってくれたから、もうこの曲しかないなって。決めた時は叶わない恋だと思ってたから、想いを全部込めるつもりだったの」
「そうだったんだ。嬉しいな」
彼は微笑みながらグラスに口を付ける。
「でも想いが通じ合って、これからずっと歩んでいけますように、って願いや出会えた感謝とかも加わった感じ」
話していて照れる。そっと彼の手に自分の手を重ねた。
「私の気持ち伝わった?」
「うん。すっごく嬉しい。感動した」
どちらからともなく、顔が近づき唇が重なった合った。
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