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1-3 ドライブ
兄の所有する高級ハイブリッド車の助手席に乗り込む。
「今日の服、似合ってるね。いつもより大人っぽい」
「ありがとうございます。もう二十歳ですから少しは大人にならないと」
「彩音は出会った頃から俺なんかよりよっぽど大人だったよ。目的地はちょっと遠いからゆっくりしておいて」
車内からは耳心地のいい洋楽が流れる。緊張で話題が出てこない。
出会った頃。
兄に出会ったのは14歳。分家は血縁関係としては遠く親戚という感じではないため子供同士の交流はない。ある程度成長して優秀と判断されると東雲グループに入ることが決まり、それに応じて顔見知りになる。
養子縁組で分家の次男を迎えると聞いたとき、兄が出来るのが嬉しかった。
母は祖父と折り合いが悪く、東雲の教育方針へ反発して家を出て行った。父は忙しい人で出張も多く使用人はいるものの静かな家が寂しかった。
兄も当時社会人になりたてで忙しい身ではあったが、なるべく朝食を一緒に食べてくれ、折に触れて私のことを気にかけてくれた。学校行事を見に来てくれたこともある。
本家の後継ぎとしていきなり連れてこられ、仕事だけでなく周囲から羨望と嫉妬などを受け苦労はたくさんあるだろう。微力でもサポートしたいと思っていた。
でも彼はとても優秀で立ち振る舞いに非の打ち所がなかった。特にコミュニケーション能力が高いと感じた。
相手の足りない部分、求めるものを会話の中で引き出し、その場でアイデアを提示しお互いのメリットをわかりやすくアピールする。その方法しかないと思わせる。
ルックスもいい。身長は170cm台後半で足も長く顔立ちは中性的な美形。笑顔は人懐っこく可愛らしい。
まだ若いので威厳はないものの、皆自然と彼の声に耳を傾け、彼の意見を求める。将来東雲にとって欠かせない存在になるだろう。
家でも私のちょっとした変化に気づき、先回りして気を遣ってくれ、寂しさを埋めてくれた。私がこの完璧な男性に憧れを抱くのは必然で、気がつけば恋心に変わっていた。
そんな事をぼんやり考えていたら声をかけられた。
「学校疲れてない?授業あったんでしょ」
「兄様の仕事に比べれば全く。大学楽しいですし」
我に返って彼の方を向いて笑顔で答える。
「お友達に祝ってもらった?」
「はい。バスソルトとオリジナル香水をもらいました」
「オリジナル香水?へぇすごいな」
「私をイメージして調合してくれたみたいです。お昼にスイーツを買ってプチ誕生日会もしてくれて。嬉しかったです」
「良いお友達だね。負けてられないな」
その後もポツポツと会話をしながら高速を走っていった。
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