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9-3 特別
食事の最後、屋敷で作って持ってきたブッシュドノエルを一緒に食べた。
食器を片付け、彼はソファーでワイン、私はソファーテーブルに肘をつき、地べたに座って紅茶を飲んでいる。
薄暗い部屋に揺らめくキャンドル。この無言の時間すら愛おしい。
「ね、クリスマスプレゼントがあるの」
私は振り向いて彼に声をかける。
「用意してくれたんだ。ありがとう」
私はリビングの隅に置いておいた大きめの箱を持ってきて彼に渡した。
「大きいね。開けていい?」
「どうぞ」
出てきたのは鉢植えのような大きさの壺と液の入った容器、細長い棒が数本。ほのかに爽やかな匂い。
「これ、ルームフレグランス?こんなに大きいのがあるんだ」
「そうなの。光留が好きって言ってた香りに似ていて、インテリアになるし良いかなって」
この家はほとんど家具が無い。彼は屋敷の部屋もあるから荷物が少ないのだろうが、少し寂しい印象があった。
液の入っている容器の蓋を開け、鼻を離して香りを嗅ぐ。
「うん、良い匂いだね。彩音が置きたいところに置こう」
よかった。この香りはリラックス効果がある。寝室に置かせてもらおう。
「美園と一緒に買いに行ったの。オリジナル香水を作ってくれた子。デパート凄く混んでたけど色んな種類があって楽しかった」
「わざわざ買いに行ってくれたんだ。ありがとう」
彼は一旦フレグランスを箱に戻す。
「じゃあ俺からも」
ソファーから立ち上がって東京タワーの見える窓辺の方へ向かった。
「こっちに来てくれる」
言われた通り移動して彼の顔を見上げると、キャンドルと夜景に照らされて、優しい眼差しに光と私が写っていた。
「彩音」
体がビクッとしてしまった。
今まで聞いたことの無いような優しい声で名前を呼ばれ、鼓動が飛び跳ねる。心臓がうるさい。
そんな私を見て彼はクスッと笑い、窓の外に視線を移す。
「今日はありがとう。彩音のおかげでいいクリスマスが過ごせた。料理もケーキもおいしかったよ」
「私も。好きな人と過ごせるクリスマスなんて縁が無いと思ってたから。光留と過ごせてすごく幸せ」
見つめ合って微笑み合う。
「こないだは色々話した流れで言っちゃったから。もう一度改めて言わせて」
「うん」
「君の誕生日から一緒に過ごすようになって俺の日常が変わった。何気ない会話や一緒に食べる食事全部楽しくて幸せで、会えない時間も次会える時まで頑張ろうと思えた。君がいる日常、それこそが俺にとってなにものにも代えがたい特別なんだ」
「うん」
「君を愛してる。俺と一生、一緒にいてください」
気が付くと彼はいつの間にか手にジュエリーボックスを持っていた。誕生日にネックレスをくれたときと同じだ。
「ふふっマジシャンみたい」
「種も仕掛けもないよ。偽りのない俺の本心」
彼がボックスを開けると大きなダイヤがついた指輪が輝いていた。
私の左手をとり薬指にその指輪をはめ、目を閉じて手にキスをした。薄暗い部屋の中キャンドルに照らされたその顔が本当に美しく、愛おしかった。
彼の瞳がゆっくり開くのを待って告げる。
「私も愛してる。ずっとあなただけを。私もあなたを支えたい」
「うん」
彼は私の手を引き寄せて強く抱きしめた。
「やっと手に入れた」
顔を覗き込みキスをくれた。
私も負けじと彼の方に手を回しぎゅっと抱き着く。
「絶対離さないから」
私の左手の薬指で輝いているダイヤは窓の外に広がる東京の夜景の光を集めて輝きを放っていた。
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