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10-1 大晦日
クリスマスが終わると年末年始へ向け屋敷の中も慌しくなる。
年明けから親戚や関連企業、取引先などか屋敷に挨拶に出向いてくるので大掃除はもちろん、庭の手入れ、正月飾りなど使用人達が頑張って準備してくれる。
またお歳暮も山の様に届くので私も仕分けや父の代理でお礼状を書いて手伝った。
大晦日である今日も、明日から着る着物や服装、挨拶に来られる方々の確認をして過ごしている。
昼過ぎには彼も屋敷に帰ってきて元日からのスケジュールの確認や打ち合わせをしているようだったが、実際顔を合わせられたのは夕食だった。
夕食は料理長が毎年手打ちで年越しそばを作ってくれる。
住み込みで大晦日にまで働いてくれている使用人達とこの時だけ同じテーブルで食事をとるのが恒例になっており、皆で食卓を囲んだ。
父も途中から顔を出した。二人とも普段通りに接しており、まだ私達の気持ちが通じたことが伝わってないのかも、と思った。
いつもは使用人として立場を弁えて接している皆がこの日だけは少しくだけた態度で話してくれる。
子供の頃から大晦日は好きだった。
明日も早いということで楽しかった時間は終わり、お開きになった。
使用人たちは手際良く片づけを始めている。
部屋に戻ろうとする私たちを父が呼び止めた。
「二人とも、3日の夜習志野の親御さんが来るから客間に来なさい」
「え、3日ですか」
「ああ、今はあちらにお孫さんがいるし元日は来なくていいと言った。明日は慌ただしくてゆっくり話はできないからな」
元日は親戚や分家が本家であるこの屋敷へ挨拶に来ることが慣例になっている。
顔を合わせるのはせいぜい15分ぐらいだ。
「光留、その時にお前達の話は聞くから。明日からまた忙しくなるがよろしく頼む」
「はい、ありがとうございます」
彼が返答すると父は去っていった。彼と私が残され、私は意図が分からず返答出来なかった。
「いよいよだね。正月三が日で両親も同席するのにはびっくりだけど、早い方がいい。俺に任せてくれる?」
彼が振り返って微笑む。彼はすぐに父の意図を理解したらしい。
「うん、頼りにしてる」
私は彼に近づいて手を取り指を絡ませた。
「お嬢さんを下さいってやっと言える」
「やだ、笑ってしまうわ」
クスクス笑う。
「父さんには君の気持ちを確認できたときにすぐ連絡したんだ。1年の期限よりずっと早かったなって褒められたよ」
「あの人に認められるとこれでもかというぐらい酷使されるから気を付けてね」
冗談のつもりだったが彼は真顔になる。
「そうなんだよなぁ……でも彩音がいるから頑張るよ」
と真面目に返されてしまった。少し心配になってしまう。
「じゃあ今日はゆっくり休んで。お休み」
「おやすみなさい」
額にキスして頭をなでてくれた後、廊下で別れお互いの部屋に戻った。
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