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10-2 報告
東雲家では元日は親戚と分家の挨拶、2日は関連企業からの挨拶、3日は主要グループ会社の幹部を集めて神社に初詣に行く。
4日の仕事始めは各社の裁量でどのように行うか任されているので前日の3日にグループ全体での新年の行事を行っている。
本社近くの大社へ参拝したあと本社の大会議室で挨拶や懇親会を催しているらしい。
取締役である父と彼は出席して夕方帰ってきた。
習志野家のご両親はすでに到着しており、私も早めに客間へ行き談笑した。主に彼の昔話とお孫さんの話題で話が弾んだ。
「久しぶり」
スーツ姿の彼が客間へやってきた。
「相変わらずだな。明けましておめでとうだろ、今日は」
彼のお父様が諫める。彼の表情と態度がぶっきらぼうで実の両親の前ではこんな感じなのかと少し面白い。
「今ね、彩音ちゃんと楽しくお話してたのよ。あなたの恥ずかしい過去いっぱい話しておいたから」
お母様も話に加わる。気さくで話上手で美人なお母様だ。彼は母親似だろう。
「そんなものないよ。俺早熟だったから。周りよりずっと精神年齢高かったから」
「それが痛いんじゃない。孤高の存在ぶっちゃって」
「それなりに合わせてたよ。心で思ってただけ」
ムキになって反論する彼が新鮮だ。興味深く見ていると彼は私の視線に気付きそれ以上この話をするのをやめた。
「お仕事お疲れ様です」
笑顔で声をかける。
「うん。両親の相手をしてくれてありがとね。父さんと一緒に帰ってきたんだ。もうすぐ来ると思う」
彼は私にはいつもの穏やかな顔を向ける。
「光瑠ったら彩音ちゃんには紳士なのね」
お母様が横からからかう。
「うるさい」
彼は私に穏やかな顔を向けたまま自分の母親に言い放ち、しまったという顔をした。私はクスクス笑いながら実の親子のやりとりを見守った。
「明けましておめでとう。待たせてすまない」
父もスーツのまま客間に入ってきた。私の隣に座る。
「あけましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願いいたします」
彼の両親が深々と頭を下げる。
「ああ、今年もよろしく。それで光瑠、お前の話を聞こう」
「はい」
彼は表情を引き締め、背筋を伸ばし、両手を握って膝においた。
「先日彩音さんにプロポーズをして、良いお返事を頂けました。彼女と共に東雲に尽くし、私の命をかけて彼女を幸せにいたします。どうか、結婚をお許しいただけないでしょうか」
彼は深々と頭を下げた。先ほどまでの和やかな空気は消え緊張が走る。父がゆっくり口を開いた。
「ああ、光瑠。彩音も東雲もお前になら任せられる。二人で頑張りなさい」
「ありがとうございます」
彼は更に頭を深く下げ、顔を上げた。私と目を合わせて微笑み合う。
「堅苦しい話はこれで終わりだ。光瑠、先日褒めてやった件、あれは取り消す」
「えっ何故ですか」
彼の両親と父が顔を見合わせニヤニヤしている。
「だってお前たちは両想いだっただろう。好き合った二人が定期的に会えばくっつくに決まっている」
父は楽しそうに私たち二人の顔を見る。先ほどまでの緊張感はあっという間になくなった。
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