2-1 夕焼けの空

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2-1 夕焼けの空

 港区の屋敷から1時間半、若干渋滞の起こっていた高速を使い鎌倉の海沿いにある駐車場に着いた。駐車してエンジンを切る。 「運転お疲れ様でした」  と言ってお辞儀をすると 「ナビみたいだね」  と笑われた。私も一緒に笑い、車を降りた。   「良い風ですね」 「うん。良い気候になってきた」  二十歳の誕生日に好きな人と鎌倉に来られるなんて。鎌倉へは会食ぐらいでしか来たことがない。  ふと空を見上げるとちょうど夕暮れ時で青とオレンジ色が混じり、赤く染まった太陽が山にかかっている。予期せず出会った幻想的な風景に目を奪われた。    私は今の季節が好きでは無い。夏の終わりを告げるこの風が、赤く染まる太陽が、夏とは違う音色で鳴く虫たちが何だか寂しい。誕生日もあるせいか大人になるまでの猶予期間が刻一刻と過ぎていることを知らせてくる。    でも今日が誕生日だからこそ私はここに来てこの景色を彼と一緒に見られた。この夕焼けは一生忘れないでいよう。    足を止め見入っていると彼が手を繋いできた。我に返って彼の顔を見ると 「今日はデートだから」  と優しい微笑みを向けてくれた。彼の手の温かさによって現実に引き戻される。 「夕焼け、綺麗だね」 「はい」  私は心が温まるのを感じながら嬉しさを悟られないよう少しだけ彼の後ろで、手をひかれて海沿いの道を歩く。  今日の目的地は海沿いにあるイタリアンレストランだった。店内は木材とレンガが多用された温かみのある内装で奥にピザ釜が見える。  海の見える窓際の席を案内された。   今日は車なので彼はノンアルコールビール、私は炭酸水を頼んだ。 「じゃ、誕生日おめでとう」  コツンとグラス同士をぶつけて乾杯し、口に運ぶ。 「今日一緒に飲めたら良かったけど」 「まだ心の準備が出来てないので」  特にお酒を飲みたい願望は無いので笑ってそう答えた。 「初めて飲むときは俺が一緒の時にしてね」 「はい」  一緒にお酒。  あんなに二十歳がくるのが気が重かったのに、こうしてデートして次の楽しみまであるなんて信じられない。 「料理、食べたい物ある?なんでも言って。他は適当に合わせるから」  彼がメニューを渡してくる。 「ありがとうございます。では……ウニのクリームパスタを」 「わかった。他は?」 「お任せします」  彼にメニューを渡すと他に前菜の盛り合わせ、カルパッチョ、メインの肉料理を頼んだ。  店内は静かで女性同士やカップルが多い。しばらくの無言の後口を開いた。 「鎌倉はよく来られるのですか」 「ああ、たまに気分転換に。東京から距離が丁度良いから来る様になったんだ。この辺りはビーチが近いから賑やかな店が多いんだけどここは静かだから気に入ってる。彩音と来れて嬉しいよ」 「鎌倉は会食でしか来たことないので私も嬉しいです」  やっと彼が私の目を見てくれてホッとする。 「よかった。今日はもう遅いからまた今度昼間に来て江の島や観光地も行ってみない?」  思わぬ誘いに驚いたがここは話を合わせる。 「いいですね。紫陽花寺とか綺麗ですよね。あ、でもその時期はすごく混んで大変かも」 「ちゃんと手を繋いでいればぐれないよ」  私は無言で笑顔を返す。    今日のデートといい、彼は私に同情してくれているのだろうか。恋を諦め初体験の相手も結婚相手も選べない私に恋人気分を味合わせてくれているのか。せめて素敵な思い出になるように。  彼の意図は分からないが、こうして一緒にいられるのは嬉しい。同情でも甘えたい。  料理が運ばれてきた。地元野菜を使った前菜は色鮮やかで美味しかった。 続いてカルパッチョ、肉料理、最後にパスタ。 彼が半分取り分けて渡してくれる。 「ウニ好きなの?」 「はい、実は。子供の頃はお寿司屋さんでウニばっかり食べれたら良いのにって密かに思ってました」 「可愛い子供の夢だな」  彼が笑って聞いてくれる。    最初はぎこちなかったものの、だんだん会話も弾むようになって他愛のない話も楽しい。一緒に朝食を食べていた頃に戻ったようだ。  パスタも食べ終わり、ドリンクもそろそろ無くなると言うところで店員さんがテーブルに来た。
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