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2-2 サプライズ
「こちら、ご予約頂いたデザートになります。お誕生日おめでとうございます」
中央にデコレーションしたガトーショコラが乗り、余白に「Happy Birthday」と書かれたデザートプレートがテーブルに置かれた。
私がびっくりして彼の顔を見ると
「二十歳、おめでとう」
と微笑んで言ってくれた。
店員さんは私のスマホで写真を撮ってくれ、コーヒーを注文した。
「サプライズ緊張しちゃって、食事中上手く話せなかったよ。ごめんね」
彼は謝りながら切り分けたケーキを渡してくれた。
「いえ、そんなことないですけどすごく驚きました。嬉しい。忘れられない誕生日です」
満面の笑みで答えた。
私の好物のガトーショコラ、覚えてくれてるんだ。些細な事が私を舞い上がらせる。
今度こそ食事が終わり店を出る。
すっかり夜になった誰もいない海沿いの道を手を繋いで歩く。少し冷たい風が火照る頬に当たって気持ちいい。
後は東京に帰るだけなのだろうか。このデートは最後どう終わるのだろう。今日……するのかな。
ドキドキしながら無言で歩いていると街灯の下で彼が立ち止まる。
「彩音」
急に発せられた優しい声に肩がビクッとなった。恐る恐る彼を見上げる。
「誕生日プレゼント」
手を繋いで無い方の手にジュエリーボックスを持ち、私に差しだしてきた。
「えっそんなわざわざ。デートまでしてもらっているのに」
思わずムードも何もない声が出てしまった。
「デートは俺がしたかったから。これはお祝い」
手を離しボックスを受け取る。
開けてみるとボックスの中身はスクエア型のサファイアとメレダイヤがあしらわれているゴールドネックレスだった。
「誕生石のサファイア。ベタだけどつけやすいかなって」
「素敵。すごく嬉しい」
暗くて見づらいがカッティングがカジュアルなデザインになっていてシンプルだけど可愛い。確かにつけやすそうだ。
「つけてるところ見せてくれる?」
彼は一旦私からネックレスを貰い受け、後ろに回って金具を留める。私を振り向かせ顔を覗き込んできた。
「うん、似合ってる」
お礼を言おうと口を開こうとしたら突然唇に柔らかいものが触れた。目を瞑る余裕もなく彼の顔が間近にあり、唇に触れたものは彼のそれだと気づく。
唇が離れても声も出せず驚いて彼を見上げると余裕のある大人の顔で微笑んでいる。
「でも暗くてよく見えないな。後で明るいところで見よう」
返事をしなきゃ。反応しなきゃ。思っても口が、体が動かない。そんな私を見て彼は笑みを深め、頬に手を当てまた唇を重ねてきた。
少し冷たい夜風が唇から伝わる彼の体温を際立たせる。彼の唇はとても柔らかく心地よく、自分はどう感じられているだろうと心配になった。
彼は唇を離し、また手を握る。
「行こうか」
大人の男の顔をした彼に手を引かれ駐車場に戻る。
私はファーストキスの余韻に浸りながら、こんな夢みたいな誕生日あって良いのだろうか、などと考えていた。
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