3-1 回想(光瑠視点)

1/1

234人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ

3-1 回想(光瑠視点)

 彩音は眠ってしまった。    出会った時からずっと大切に想ってきた。  いつか誰かに取られる義理の妹へのこの気持ちをずっと押さえ込んで見守ってきた。  その彼女が今自分の腕の中にいるなんて信じられない。  俺と彩音が兄妹になったのは彼女が14歳、俺が22歳。  東雲家の分家である習志野家の次男として育ち、大学の建築科に進学した。    子供の頃から「お前は本家の後継になるかもしれんからな」と言われ周りの同級生より厳しく躾けられ、東雲について歴史や事業内容など聞かされていた。  その中でも途上国のインフラ整備により現地の人々に多大な影響を与えた東雲建設に心惹かれた。  数十年の時を超えてなお現地の人々の生活を支え感謝される一本の橋、鉄道、道路。自分もそんな仕事に携わりたいと思った。  両親に東雲建設の就職試験を受ける旨伝えた所、本家から呼び出しがあった。    他の分家に有望な者がいなかったのか、俺を後継者として育てたいと言ってきたそうだ。  両親は「親子の縁が無くなるわけじゃない、自分の役割を果たしなさい」ということを俺に説いた。  プレッシャーはあったが子供の頃からそれなりの教育を受け、成績も残してきた自負があったので言われるがままに頷いた。  彩音とは本家に挨拶に来た時や、東雲主催パーティーなどで何度か見かけた程度の面識だった。まだ幼かったせいかそもそも出席していない時も多かったと思う。  血筋は何代も前から離れており、あちらは名家中の名家であるため親戚付き合いの様なものはなかった。    初めて面と向かって話したのは東雲家本邸の客間で両親と一緒に顔合わせをした時。その時義理の父と現れた少女に目を奪われた。    こんなに品があって凛として大人びた中学生いるだろうか。少し釣り目の正統派美人な顔立ち、腰まで伸びた真っ直ぐで艶のある黒髪。すらりとした体型に白いワンピースが似合っていた。    形式的な挨拶が終わり、弁護士から東雲家に入るまでの大まかな流れの説明を聞いたあと、茶器と茶菓子が運ばれくだけた会話が始まった。    両親と義理の父は仕事や養子縁組の話は一切せず、和気あいあいと近況や世間話をしている。  今までそんな関係とは知らず面食らっていた所で向かいに座っていた彼女が声をかけてきた。   「光留さん、彩音と申します。私兄弟に憧れてたんです。兄様とお呼びしてもよろしいですか」  彼女は1ミリの隙の無い笑顔と口調で話しかけてきた。 「ああ、彩音さん。こうやって面と向かって話すのは初めてだね。君みたいな可愛い妹に兄と呼ばれるのは光栄だよ」 「妹になるのですから、彩音と呼び捨てで呼んでくださると嬉しいです」 「えっ緊張しちゃうな。何せ本家のお嬢様は雲の上の存在だから。慣れるまで時間かかりそう」  彼女はくすくすと笑う。 「そんな、雲の上なんて。不束者ですがこれからよろしくお願い致します」  彼女は頭を下げ、顔を上げて微笑んだ。 「そんな嫁入りみたいな。こちらこそ不出来な兄だけどよろしくね」 「家に入られるのは兄様の方ですわ」    先程の凛とした女性の表情とは変わり、可憐にふわりと笑い、年相応のあどけなさもある。たったこれだけの会話でも彼女が財閥令嬢としての自覚を持ち振る舞っていることが垣間見えた。  兄として、生まれながらに大きなもの背負うこの少女を少しでも守れたらと思った。  甘える様に顔を埋めた彼女が寝息を立て始めた。体液のついた箇所をウェットティッシュで優しく拭き、体が冷えない様下着と寝間着を着せた。よっぽど疲れたのか体を動かしても起きない。  額にキスを落とし、髪をなでキッチンに向かう。    ブランデーの水割りを飲みながら今日一日を振り返る。    今日のプランは悩みに悩み抜いた。  俺は仕事以外の事は無頓着で、恋愛も思春期以来してない。大学時代も趣味や学業など知的好奇心を満たすことのほうに楽しみを見出していた。  そのツケでどうやったら彼女を喜ばせられるか分からない。今まで兄と慕ってもらっているだけにがっかりされたくない気持ちもある。    高級なものは彼女にとっては日常だし、あまり魂胆が透けすぎても引かれる。彼女を振り向かせるのに効果的なものは何か。  考えた挙句、少しだけ大人の余裕を見せて普通の女子大生からすればベタなくらいの王道を選んだつもりだ。  終始笑ってくれてたが彼女は気遣いの天才なので本心は分からない。    それから初めての行為。  言うまでもなく快楽はすごかったが、想いを寄せていた彼女と繋がれた喜びが圧倒的に大きい。  彼女の美しい体を初めて見てどれだけ興奮したか。可愛くおねだりされ平静を保つのがどれだけ大変だったか。奥に到達した時どれだけの感慨が胸に去来したか。  好きな相手と繋がるとこんなにも幸せな気持ちになるとは知らなかった。これはもう絶対手放せない。  思わず「好きだ」「愛してる」と言葉にしてしまった。  つい気持ちが昂って口走ったが、彼女が否応なく初めてを捧げている相手だとしても、こちらには愛があることを知って欲しい気持ちもあった。  彼女も「好き」と返してくれたが、あの状況で交わされた言葉をそのまま受け取れるほど楽観的には考えられない。    これから1年で絶対彼女の愛を勝ち取らなければならない。そのためにどうするのが最善か。  色々な思考が頭を巡ったが今は彼女の初めての男になれた喜びを噛み締めて水割りに口をつける。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

234人が本棚に入れています
本棚に追加