真白のドラゴンと酔っ払い

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ケンドラは自分の膝が擦りむけた事なんかよりも、ヴァルターから勝手に借りたクロスバイクがどこかに行ったことの方が心配だった。無論、青年が畑にいた事もなんにも気にならなかった。 「やば、ヴァルターに怒られる。探さなきゃ」 「え?怪我してるのに……」  畑で身を隠すように座り込んでいた青年の存在を無視して、落ちてきた崖の方へスマホライトを当てた時である。 「何すんのよ!!」 「人から隠れてるんだ!やめてくれ!」 「はぁ?知らないわよ!」 「頼む、静かにしてくれ!!」  青年は彼女の口を塞いでそのまま畑へと押し倒した。 クロスバイクからふっとんだり、青年に口を塞がれたりと忙しい。こいつ、と思ったケンドラがポケットに入れてあったコルクを手に掛けた時である。確かに、穏やかではなさそうな集団の声が辺りから聞こえた。 彼らの声が怒気に満ちている様な気がしたが、彼らの言語のせいなのかはケンドラにはわからなかった。 でも、この男が追われているのだろうと理解する事は出来る。 このまま寝たいな、なんて酔っている彼女は呑気にそう考えながらポケットをまさぐった。 「……君、連盟の人間なの?」  多分ヴァルターのクロスバイクよりも大事なもの、社員証ならぬ彼女が務める魔術師連盟の職員証である。青年の問いかけに彼女はウィンクをした。だって口を塞がれているから。 すると途端、男の瞳が爛々と輝き始めた。 酔っぱらっていても顔の造形を見定める力はある。ケンドラはバーで声をかけられたら話しても良いくらい、ハンサムだと思った。アイキャンディー、見た目は酔い。そう思った。
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