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でも今はそれどころではない。
「助けてほしい」
ケンドラの口から青年の手がはがれる。
何か言おうとした瞬間、スマートフォンの小気味よい着信音が鳴った。
青年の瞳から光が抜けて行き、表情が強張り始める。
「立って!」
「はあ?なんで」
抵抗する間もなく彼女は青年に腕を引かれ、そのまま森の方へと走り出した。
口の中に泥が入っていたらしく、ケンドラは走りながらも口の中から泥を吐いた。
「あんた何なの?私家に帰らないといけないんだけど」
「追われてるんだ!」
ずっとずっと気が付かなかったが、青年の髪の毛と違わない白銀の月明かりに照らされケンドラはようやく気が付いた。青年の額からは血が流れており、口周りは鼻血を拭った後がある。
どんなに酔っぱらっていても何かを感じる力は残っている様で、彼女は目を大きく見開いた。
「魔法使いってわけ?」
「違う、ドラゴンだ」
「は?」
ケンドラの頭を駆け巡ったのは親友の母親である。
魔力盲信の国から違法に出国した魔女の母親が、出所不明の禁薬を使ってドラゴンとなり娘である魔女を取り戻そうとしのだ。娘の力を手放したくないあまりに、追いかけてきてはドラゴンになった瞬間をケンドラはよく覚えていた。
そういえばその時も酔っぱらっていたが、あれは酔った時の夢ではなかった。だって、文化遺産の城の庭にドラゴンの足跡がしっかり残っていたし、SNSで出回った動画を彼女は何度も見た。
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