真白のドラゴンと酔っ払い

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真白のドラゴンと酔っ払い

 美しいもの、と聞かれたらケンドラは父親譲りの金髪と地中海の青さにも負けない澄んだ青色の瞳と答えるだろう。 醜いもの、と聞かれたら愛する人の泣き顔よりも自身の欲を優先する父親だと答えるだろう。 ケンドラとティーワイの出会いは秋の終わり、冬の入りを目前にした日の事であった。 父親からの数年ぶりの連絡を受け、彼女の心は沸騰しきった尚も勢いが失せない釜のように揺らいでいた。決して派手な飲み方などしないのに、この日ばかりは我慢が出来なかった。呼ばれたホームパーティーで見つけた、自分の生まれ年のワインだ。  ケンドラはそれを片手に持ったまま、幼馴染で同僚であるヴァルターのクロスバイクを勝手に借りて人気のない車道を走っていた。  家を出て15分程、この調子で走れば家には4時間くらいで着くだろう。酔っぱらっているせいで彼女の頭は正常に働いていない。ずっと、スマートフォンが鳴っているがそれすらも出られないくらいには。  着信の主はわかっている。どうせヴァルターだ。クロスバイクが無くては彼は帰れない、いや、まだバスがあるしバスに乗れば良いのよ、と彼女は坂道を下り始めた。  下がり始めているのに、彼女は気付かなかったのだろう。途中まで漕いでしまったせいで、クロスバイクは想像以上に速く坂を下り始めている。 「きゃーーーーー!!!」 恐怖の悲鳴ではない。黄色く色づいた楽しそうな叫び声である。
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