本編

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 如月(きさらぎ)(のぞみ)は、今日もそのバーにするりと滑り込んだ。 「いらっしゃいませ」 「どうも」  マスターに適当に会釈して、カウンター席に座る。 「水で」 「かしこまりました」  希の注文にも、マスターは眉ひとつ上げない。ここはバーだが、ただ酒を飲むだけの場ではないからだ。  プレイバー、というものが出来たのはいつのことだろうか。ここはDomとSubのための店だ。  医学が発展し、Normal以外にDomとSubといういわゆるダイナミクス性が発見されてしばらく経つ。DomはSubを従えたいという欲求を持ち、SubはDomに従いたいという欲求を持つ。そしてDomがグレアという力によってコマンド(命令)を出し、Subがそれに従うことをプレイと呼ぶ。  そのプレイをするための店、というのがプレイバーである。プレイルームのレンタル料、そしてプレイの内容によっては追加料金も取れるので、実際には酒を売らなくてもいいのだが、バーであるのは年齢確認も兼ねてのことだ。プレイには性的なものも、過激なものも含まれる場合がある。なんなら酔って事故を起こされないために、実際にはアルコール飲料は一切提供しない店もある。  ともあれどちらもお互いに嫌がることさえしなければ、プレイをすることで両性の欲求が満たされる。それが一般的な認識だ。  そんなに単純だったらどんなにいいだろう、と希は思う。もしそうだったなら、自分はこんなところに来る必要は無いのに。
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