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居酒屋の店内、私、美咲育子は中学校からの親友の飯田香織とテーブルを挟んで座っていた。私は、チビで小太りで手も足も丸くて短くて、顔もピッタリ十人並の仕上がりだけど、香織の方はモデルばりに身長があって鶴みたいにすらりとした手足、小さな顔にぱっちりとした目鼻が絶妙に配置された和風美人だ。
香織とは時々、今日みたいに二人で食事して、互いの愚痴や近況を話している。最近同年代の友人たちが立て続けに結婚したので、独身同士遊べる相手は貴重なのだ。最後に売れ残るのは私だろうけど。
周りのテーブルの男たちが香織ばかり気にしているのには気づいていた。私の存在がすっかりスルーされていることに、悔しさより寂しさを感じる。香織といればこんなの慣れっこだけど。
「仕事の後のお酒ってやっぱり美味しい! 一ヶ月ぶりだけど元気にしてた?」
と、私がグラスの中のビールを一気に飲み干すと、つまらなそうにぶり大根をつついていた香織が、
「私、結婚することになったの」
と、答えた。
「えっ」
驚いて倒しそうになったグラスをすんでて止め、ひきつりかけていた口元を強引に引き上げて私は微笑んだ。
「おめでとう! とうとうゴールインするのね。五木くんと」
香織は、首を傾げて困ったように笑い返した。
「ううん、五木くんとは半年前に別れた。結婚するのは別の人」
「えぇっ? だって……五木くんとは十年以上付き合ってたのに!」
そう言ってから私は「あっ」と自分の口を抑えた。つい責めるような言い方になってしまったから。
香織が片眉を上げて、私に向かって両手を広げたのちピースサインをする。謎のジェスチャーに私は顔をしかめた。
「なにそれ?」
「付き合ったのは十二年、ってこと」
思わずガクッとなった私が、
「十年以上であってるじゃない! そんなに長く付き合ったのにどうして?」
とツッコむと、
「色々あって……」
香織が料理に視線を落とす。
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