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side 内藤
真夏。
暑い、正直うだっている。
仕事中はクーラーの効いた所にいるから、こうしてゆっくり自宅で過ごしていたら余計真夏の暑さにぶっ倒れそうになる。
クーラーはつけたくない。
節約大事。
近い将来、あの綺麗で可愛くて清楚なのに勝ち気な女神様と結婚するためにも、その資金は貯めときたい。(まだプロポーズしてないけど)
そんなわけで、俺の部屋では扇風機が強風で大活躍。
その真ん前でフローリングに寝転びウダウダと過ごしていた午前10時、テーブル上でスマホが着信を告げた。
「…誰っすかね…クソあっちぃ中電話かけてくるの…」
精一杯腕を伸ばし手探りでスマホを取る。
そうして確認した画面には女神様の兄こと、友人の蒼牙の名前。
「うぃーっす…どしたー…?」
確か蒼牙も今日は休みのはず。
寝転んだままだらけた声で電話に出ると、『どーも』とどこかふてたような声が返ってきた。
いやいや、ふてられる覚えないっすよ?
いつものことながら、蒼牙の案外ガキっぽい態度に苦笑した。
普段人当たりが良いくせに、気を許した相手には自分の気分を隠そうとしないのが蒼牙という男だ。
こんなあからさまな態度も蒼牙が俺を友人だと思っているからだと思うと、これはこれで嬉しいものがあるけれど。
まぁ、そう思えるのも偏に俺が大人だからな。
「どーも。どしたの?」
仰向けに天井を見つめながら問えば、電話の向こうで蒼牙の大きなため息と悠さんの声が聞こえてきた。
『ため息吐きたいのはこっちだ!朝っぱらから、あんな…とにかく、さっさと誘え、阿呆が!』
『だって、我慢するんだからちょっとは美味しい思いしても良いと思う!!』
『はぁあ?意味分からん!だいたい、お前は加減を知れ!』
『無理です!』
『っ、言い切るな!!』
「……………………」
あ、なんか予想ついた。
切っても良いかな?
どうせいつもの惚気と痴話喧嘩でしょ?これ。
何となく蒼牙の電話の用件を察していれば、ガタン!という音に続いて悠さんの声が近くなった。
『貸せ、俺が言う!』
『あ!』
「…えーっと、悠さん?」
どうやらスマホを奪われたらしく、声の主が蒼牙から悠さんへと移る。
『うん。ごめんね、内藤くん。今日何か予定あるかな?』
『あぁぁぁ…』
「今日?何も無いっすけど…どうしたんですか?」
なんか悲痛な声がバックに混ざってんだけど…
アホだな、あいつ。
『あぁぁぁ…』
『良かった。実は…って、煩い蒼牙。』
『うぐ、ごめんなさい…』
『よし。内藤くん良かったらさ、一緒に出掛けないか?』
「え?」
ワントーン低い声で告げられたとたんに静かになった蒼牙に呆れる。
あのでかい体を小さくして大人しく悠さんの隣に座っているのを想像して、思わず吹き出しそうになるのを堪えた。
『本当はこの阿呆がとっくに誘ってたはずなんだけどな。実は、今ここに…………』
「………………えぇ!マジっすか!行きます行きます!!」
勢いをつけて体を起こす。
思わぬ誘いに一も二もなく飛び付いた。
『うん、じゃあ現地集合な。』
「了解っす!」
嬉しそうな悠さんの声に元気よく応える。
『もーー!内藤くんのバカーーー!』
「うぇえ!?なんで?」
『予定組んどけよ、休みだろ!』
『煩い!』
電話の向こうで上がる蒼牙の情けない叫び。
それを一喝する声に続いて通話が切れる。
「子どもか、あいつは…」
思わず溢れた一言は、紛れもない本心だった。
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