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腕の中で規則正しく呼吸をする悠さんの髪を撫でる。 時計の針は朝の6時を回っていて、静まり返った室内に秒針の音が小さく響く。 髪を撫でる手が気持ち良いのか、甘えるように擦り寄る様に口が緩む。 幸せそうなその寝顔は、少し前まで甘く乱れ何度も俺の名前を呼んでは息を詰めていた。 自宅に戻ってすぐに、愛しくて堪らない身体を抱きしめた。 想いが通じ合ったあの場所であんなキスを交わして、俺が我慢できるはずもなく。 名前を呼びながら重ねた唇は居酒屋で感じたような熱はなく、夜風ですっかり冷えていたことに気付かされた。 『お風呂入ろっか?』 『ん…』 悠さんのシャツのボタンを外しながら甘く誘えば、素直に頷いてくれるのが嬉しくて。 何度も口付けを繰り返しては、柔らかな唇を甘噛した。 『蒼牙…っ、』 互いに硬くなった下半身を先に擦り付けてきたのは悠さんのほうで、アルコールが入ればいつも以上に積極的に俺を求めてくれる…普段とまた違うその姿に煽られて、浴槽に湯を張る間も離すことができなかった。 浴室で…そしてベッドで、何度も突き上げ揺さぶった。 胸の尖りに舌を這わせれば捩る身体を抱き込み、何度も吸い上げては紅い跡を残した。 甘く上がる嬌声も逃すまいと深く口付け、それに応えるように絡まる舌にまた煽られた。 『お前と、出会えて…んっ、良かったよ』 キスの合間に囁かれた言葉に、泣きたくなるほどの想いを感じた。 『貴方と一つになれたら良いのに…』 【愛してる】なんて言葉じゃ足りなくて呟けば、『そうだな』と微笑む笑顔が綺麗で。 その微笑みにまた胸が苦しくなって、全てを自分のものにしようと何度も貪欲に求めた。 「ん…」 閉じられていた瞼がゆっくりと開き、睫毛が揺れる。 「ごめん、起こした?」 夜通し抱き潰してしまい、まだ起きるには早い時間だ。 寝ていたら良いよと瞼に口付ければ、しなやかな腕が腰に回された。 「ん…まだ眠い…」 「だよね」 甘えるように呟かれた言葉にフッと笑いが溢れる。 密着する温かい身体を優しく抱きしめ返せば、引いていた熱が戻ってきそうだ。 それに… 「……………」 どんなに高級なアルコールよりも芳醇で、俺を魅了する香り。 悠さんから立ち上るその香りに、人とは違う欲求が俺の中で渦巻く。 この人の血が欲しい。 身体を繋げるだけではない、この人の一部が俺に混ざる…あの得も言われぬ気持ちを感じたい。 全く、一晩中己の欲をぶつけたくせに、自分でも呆れるな… 悠さんに聞こえないように自嘲し、逃すように小さく息を吐いた。 「……蒼牙」 「ん?」 そのまま暫く抱きしめていれば、消え入りそうな小さな声が名前を呼んだ。 どうしたのかと身動ぎすれば、悠さんの方から俺に覆い被さってきた。 ベッドが軋む音とシーツの擦れる音が混ざる。 「いいよ」 そう言って俺がしたように瞼にキスを落としてくると、悠さんは見せつけるように白い首筋を晒した。 「…………」 何故、悠さんには伝わってしまうのか分からない。 こうして許してくれることが素直に嬉しいとも感じている。 けれども、それを実行に移すにはあまりにも自分本意な気がして。 直ぐに牙を立てたい衝動と戦っていれば、悠さんは優しく言葉を続けた。 「知らないだろ。」 「何を…?」 「蒼牙に血を吸われるとな、お前と一つになれた気になって…」 そのままギュッと抱きしめられる。 「凄く満たされた気持ちになるんだ」 「ッ!」 耳元で囁かれた言葉に喉が詰まる。 それは俺が感じていた事と同じで、それを突き付けられて心臓が震えた。 「今日は休みだしな」 照れ隠しのようにクスクスと笑う戯けた声。 細い腰に腕を回し、柔らかい耳朶に口付けた。 そのまま身体を反転させ悠さんをベッドに縫い付ける。 ジッと見つめれば、細くとも大きな手が頬に触れた。 「その顔…お前の『吸血鬼』の顔、俺は好きだよ」 見上げてくる瞳はとても柔らかく、穏やかな声で告げられる。 「悠しか知らない顔だよ。」 「光栄だな」 そう笑いあえばスルリと首に腕を回された。 知ってはいたけれども、改めて自分の全てを肯定してくれるこの人が愛しくて。 「目が覚めたら、沢山甘えてね」 「そうする」 クスクスと笑いながら悠さんが引き寄せるのに逆らうことなく、白い首筋に顔を埋めた。
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