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「あの、本当にありがとうございました」
「いやいや、こっちこそありがとう。お陰で助かったよ。」
女の子が丁寧に頭を下げる向かいで、俺も頭を下げる。
ほんと、この子が蒼牙と悠さん呼びに行ってくれてなかったらと思うと…うん、泣ける。
「それにしても、よく俺の連れが分かったね。」
何となく不思議に思っていたことを口にすると、女の子ははにかんだように笑った。
「今日、このプールで一番目立ったグループでしたから。実はちょっとドキドキしながら見てました。私も、友達みんなも。」
フフッ…と笑う女の子は素直に可愛いと思う。
(いや、ナオちゃんは別格ですからね!)
「内藤くん、偉かったね。助けに入って。」
「はい!とっても素敵でした。本当にありがとうございました!」
「いやいや、照れるから。しかも最終的に追っ払ったの蒼牙だし。」
悠さんにまで褒められて、純粋に嬉しいやら恥ずかしいやら。
ワタワタしながら椅子に座った蒼牙に目をやる。
「…………わん」
ブスッと不貞腐れた表情のまま、大人しくしている蒼牙がボソッと口を開く。
「内藤くん、そこにいるのは犬だから。」
「アハハハ…、はい」
ニッコリと悠さんに言われ、苦笑いしてしまう。
盛大に叱られた蒼牙は耳と尻尾を下げて絶賛反省中。
人をあそこまで恐怖に陥れた男とは思えないその様子に、女の子も困ったように笑っていた…。
「そういえば…蒼牙さんよ。」
「ん?」
女の子とも別れ、蒼牙に向き直るともう一つ気になっていたことを口にした。
「最初さ、何か一人に言ってたろ?あれ何言ったんだ?」
「あぁ…あれ?」
蒼牙がクスッと笑う。
うん、やっぱりこっちの笑顔のほうがコイツらしくて安心するな。
「『あなたが殴りかかった男は、今日は非番なだけで警察ですよ』って」
「はぁあ?」
何か、からかった笑い方してるなと思ったら…そういうことかよ!
どうりで疑うような目で見られた訳だ!!
「お前、それ!バレたら俺が恥ずかしいやつじゃんか!!」
「でも上手くいったでしょ?」
「そうだけども!!なんか納得いかない!!」
ケラケラと笑う蒼牙が憎たらしい。
ほんと、この男は…!
感謝はしてるけども、やっぱりコイツはバカだと思う…!!!
【帰宅後】
「蒼牙」
「う…はい」
ソファに座った悠さんの前に大人しく座る。
静かに見下ろしてくる視線が痛い。
…怒ってる。
今日は悠さんの裸見られるのが嫌で、朝からベッドに誘い込んだし。
プールでもあんな事あったしな…
しょんぼりと次の言葉を待っていると、「ぷっ…」と吹き出す声が聞こえてきた。
「悠さん?」
「駄目だ、今日のお前思い出したら…ふっ、あははははは…!!」
え?
めちゃくちゃ笑ってる?
「えっと…もう怒ってない、ですか?」
「ん?ああ、怒ってないよ。」
「良かったぁ…」
涙を拭いながら言われた言葉に力が抜ける。
そのまま悠さんの膝に頭を乗せれば、優しくも大きな手がゆっくりと撫でてくれた。
「恥ずかしかっただけで、怒ってないよ。それに…」
「それに?」
両手で頬を挟まれ、そのままグイッと顔を上げられる。
思ったよりも間近にある悠さんの男前な顔に、ドキッとさせられた。
「内藤くんがピンチだと知ったときのお前、すごい勢いで駆けつけて」
チュ…
額に柔らかい唇が触れる。
「惚れ直すくらいカッコよかったよ」
「……ッ、もう!!」
ニッと口角を上げる、俺の一番好きな悠さんの笑い方。
それをこんな至近距離で見せられて、顔に一気に熱が集まるのが分かった。
「内藤くんには、それ黙っててくださいよ!調子乗るから!」
「はいはい」
クスクスと笑いながら重なってくる唇に、やっぱりこの人には敵わないと感じた。
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