怪しい名探偵 第8回 あじさい色の人生

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 だが殺人事件には、時には幼い子供までが巻き込まれることもあり得る。7月の陰鬱(いんうつ)な雨の中、幼い命が犠牲になってしまった。  北大塚(おおつか)4丁目の裏通りにある一戸建ての空き家。塀の中は丈の高い雑草がにらみを利かせている小さな庭。その庭に面した家屋の軒下で、粗末な段ボールで作られた即席の棺桶(かんおけ)が淋しく置かれていた。(ふた)のないその中身は切り取られた色とりどりのアジサイに埋まっている。アジサイに囲まれて、まだ幼い少女が……顔だけ出した状態。表情は明らかに苦悶に満ちた様子。まるで美しいアジサイの花に囲まれることが苦痛であるかのように。朝の陰鬱な雨が葬送曲を静かに奏でる中、少女とアジサイを満載した段ボールの棺桶は飛び散る雨粒によって浸食を始め、今にも溶けて消えていきそうだった。  遺体の発見は朝の6時ごろ。近所に住む青木夏子(あおきなつこ)(72歳)が雨の中、愛犬とともに散歩していると、その空き家の前で愛犬が突然激しく吠え始め、閉まっている門の中へと入ろうとした。犬があまりにも尋常ではないことに気づいた飼い主は門を開け、犬に引っ張られるがままに裏庭へと入っていく。目に飛び込んできたのは、この世にあってはならない悲愴な光景……  「もう本当にびっくりしましたよ。まさかあの望美(のぞみ)ちゃんがこんなところで死んでるなんて。うちのラーメンが気付かなかったら、こんな人目に付かないとこでしょう? どうなってたことやら。ラーメンも悲しんでますよ。あんなにかわいがってくれたのに。本当はこの雨のようにポロポロ涙を流したいんでしょうね」と青木は泣きながら言った。ラーメンとは遺体を発見した青木の飼い犬である。典型的な茶色いトイプードル。  被害者の名は児玉(こだま)望美(10歳)。近所の小学校に通う普通の小学4年生。近所の評判によれば特に目立つ少女というわけではない。どこにでもいる普通の女の子だったとか。死因は絞殺(こうさつ)。死亡推定時刻は前日の夕方から夜の初め頃。衣服は見つかっていなく、アジサイに埋もれたその下は全裸の状態だった。
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