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それからしばらくして梅雨が明けた。身体に火が点きそうな暑さの中、海老名は丸出の住むわどメンタルクリニックを訪れた。
受付では和戸聡子が笑顔で出迎えてくれた。
「エビちゃんさん、今回のことは大変お世話になりました。とにかく真樹が犯人じゃなかったことだけでも、ほっとしましたよ」
「真樹さんの具合はどうですか?」海老名が聞く。
「ええ、日に日によくなってるようですよ。うちのクリニックで診察をすることにしたんです。人生をもっと前向きに考えてみようという気になってきたと主人も言ってました」
「ところで丸出のおっさんは腰痛でまだ寝込んでるんですか?」
「ええ。でも今日は腰をさすりながらも、どこかへ出かけて行きましたよ。何でも探し求めてた賢者の石がついに見つかったとか言って」
「ほう、と言うことは、丸出は留守ですか。留守でもあの部屋に入ることはできませんかね?」そう言って海老名は上部に「3」と表示された診察室の方を見た。
「んー、無理だと思いますよ。丸出先生、いつもちょっとトイレに行くだけでも扉に鍵をかけていくぐらいですから」
「あの中に入ったことはあるんですか?」
「いえ、入ったことはありません。うちの主人でも入れてくれないぐらいですから。ちょっと外から見た限りだと、何やら大掛かりな実験器具が中にあるようですね」
何だよ、この機会にせっかく来てやったのに。家宅捜索の令状を出してくれないものかな。海老名は心の中でつぶやきながらクリニックを後にした。丸出為夫の正体を知る探求はまだまだ続く。
とにかくわからないことだらけだ。あいつはいったい何者なんだ?
梅雨明けのよく晴れた太陽が全てを焼き払ってしまいそうな、そんな暑い昼下がりだった。
(次回に続く)
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