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いきなり何の話かと驚いたが、三喜雄は認めた。あの夜、半分寝ていたものの、確かに塚山にそう言った。三喜雄は飲酒するようになってこのかた、どれだけ酔っても記憶を失くしたことは無い。
「言ったけど、おまえが次の日の朝に、昨夜のいろいろは無かったことにしてくれって頼んだんだろうが」
そう返すと、塚山はショックを受けた顔になり、すぐに涙目になった。
「そこは無かったことにしなくていいんだよ!」
「何だそれ、意味が分からないんだけど」
「おまえに絡んで泣いたことは墓場まで持って行ってほしい、でも友達ってところは……」
そこまで言って、塚山はしくしく泣き始めた。あ然としつつも、きっとこれも明日の朝、無かったことにしなくてはいけないだろうと考えると、さすがに三喜雄の頭の中がこんがらがってきた。三喜雄は「友達」にシャワーを使わせ、話が拗れる前にとっとと寝る準備をした。塚山は疲れていたのか、あっさりと眠りに落ちたが、父が同窓会や本社への出張で東京に出てきた時のために買っておいたマットレスは、そんな訳で不本意に大活躍している。
三喜雄は回想を止めて、溜め息をついた。塚山はちょっと酒癖が悪いので、彼のためにもこれから気をつけなくてはいけない。打ち上げの夜も乾杯の後に、オペラ基礎の試験のピンカートンが凄く良かったと三喜雄が感想を伝えたら、すっかり舞い上がってあの体たらくである。これまで札幌で一緒に飲んだ時に全く気づかなかったのは、自分の不覚なのだろうか。とりあえず、店飲みでも家飲みでも、ちゃんぽんはまずいらしいことは理解した。
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