終曲/帰省

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 そう考えた時、三喜雄と同郷で長いつき合いの塚山を、亮太があまり好ましく思っていないというのか、塚山に対してだけ、「俺は三喜雄と仲良しだから」マウントのような子どもっぽい態度を取る理由にも、気づかない訳にはいかなかった。まだそこまで煮詰まった感情ではないかもしれないが、自惚れではないと思う。  亮太のことは友人としてとても好きだ。ただ、ゲイでないだけでなく、女性に対しても性的な関心が薄い三喜雄としては、ちょっと複雑である。それを言うなら、自分に対する塚山の気持ちもよく分からないのだが、塚山のあれは、小さい子が見せる仲良しさんへの執着みたいなものかもしれないと分析している。 「片山先輩って、男にも女にもモテますよね?」  高校時代、1年下の後輩に、そんな風に言われたことを思い出す。その子はゲイであることをその頃には自覚していて、自分が恋心を寄せていた男から気持ちを利用されかけ、傷ついて転学してしまった。今は音信不通になってしまい、どうしているのか気になっている人のうちの一人だ。  その後輩の言ったことが本当かどうかはわからないが、そういえば紗里奈も明らかにアプローチしてきているし(彼女と寝る気は無いが、彼女の音楽観には興味があるので、デートくらいしてみてもいいかなと思う)、どんな形であれこんな自分に好意を寄せてくれるなんて、物好き、いや、ありがたいことだと嬉しくなる。三喜雄は小さい頃から、勉強もスポーツも何もかもが「ほどほど」で、よくできた姉の陰に隠れて存在感の無い男子だった。しかし高校生の時に歌を知り、没頭できる上に、自分にも褒めてもらえるものがあるのだと気づいた。沢山の友人知人を、音楽を通じて得ることができたし、素晴らしい音楽家である先生がたとも出逢えた。歌が無ければ、きっと自分など、平凡で地味な非モテだったはずだ。まあ今も、塚山みたいな非凡で派手なモテ男ではないが。
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