番外編 姫との夏休み

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◇第2楽章◇  高3の夏に知り合った、自分とは別の高校に通っていた片山三喜雄を、天音が初めて会おうと呼び出したのは、確か2学期の中間テストが終わった日だった。半ば無理矢理メールアドレスを聞き出したので、断られるかもしれないと思いつつ、昼ご飯を食べないかと誘うと、あっさりとOKしてくれた。ちょうどその頃発売されていた秋限定のハンバーガーが食べたくて、三喜雄をハンバーガーショップに連れて行き、お互い迎える受験のことなどを語らった。  天音は帰省すると、三喜雄を1回は呼び出すことにしていた。これは天音が大学生になり東京に出て以来、ずっと続いていたが、高校時代にハンバーガーを食べながら話したのが楽しかったという、美しい思い出に基づく恒例行事である。  三喜雄は天音から誘われると一瞬面倒くさそうな空気感を醸し出すものの、他の予定と被っていなければ、つき合ってくれた(体調不良を理由に断られたことは無い)。だから天音は学部時代、年に4回ほど定期的に三喜雄と会っていたことになる。天音にしてみればかなり高い頻度なので、三喜雄はれっきとした「故郷の友人」なのだ。  大学院に三喜雄が入学してきて、授業でもそれ以外の時でも顔を合わせるようになったにもかかわらず、天音はお盆の少し前に札幌に帰ると、習慣のように三喜雄に連絡を取った。前期の授業が終わるなり、三喜雄は文字通りとっとと帰郷していた。彼が実家でのんびりしながら、旧友と会ったり、大学院に入学するまで教えてもらっていた先生に歌を聴いて貰ったりしていると聞いて、天音は何となく安心する。 「東京でいつも会ってるのにこっちでも会うの笑」  三喜雄の返事は微妙だったが、拒絶しているわけでは無さそうである。天音はすかさず返した。
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