番外編 姫との夏休み

11/42

39人が本棚に入れています
本棚に追加
/149ページ
 札幌の市街地に戻り、天音が昼食に目星をつけていたのがファミレスだったので、三喜雄は驚いてから笑った。自分は別にセレブではないということを、何とか彼に理解してほしい天音である。 「デミグラスソースのハンバーグにサラダとライスつけてください」  昔よく家族で訪れた店だった。注文にだって慣れている。三喜雄はおろしハンバーグを頼んでいた。天音は早速、前期の打ち上げの予算オーバーの件で言い訳を始める。 「飲み放題の中にカクテル系が入ってないって、俺は聞かされてなかったんだ……俺は店の選定には携わってない」 「そうだったのか……でもあれだけ女子がいるのに、カクテル系が全く入ってないのはちょっとなぁ、グラスワインは入ってたのに」  呑兵衛の三喜雄はやけに冷静に分析する。実は彼は、焼酎が無いのか幹事に確認していて、無いと言われたのでビールで我慢していた。天音は犯人探しに走ってしまう。 「確かにそうではあるけど、カクテルを勝手に頼み始めたの誰だったんだ?」 「え? 太田さんじゃないかな、カシスオレンジが飲みたいって言い出して、周りの女子が賛同したのは覚えてる」  三喜雄の答えに、天音は舌打ちした。あの女は俺を叩き潰すために、俺に迷惑をかけるのを楽しんでいるに違いない。ハンバーグがやって来て、三喜雄は水をテーブルの隅に寄せた。 「そんなことで舌打ちするなよ、これからは追加飲みを禁止するか、した人は別途徴収って、皆が酔っ払う前にきちんと通達したらいいだけだ」 「面倒くさい奴らだな!」 「誰に対して言ってんだ、こんなことで微妙にキレてる塚山が面倒くさいわ」  三喜雄の言葉に天音は愕然とする。善意で幹事を手伝ったのに手際の悪さの責任を問われたばかりか、三喜雄からこんな風に言われるなんて。泣きたくなった。  ハンバーグにナイフを黙々と入れていると、三喜雄が軽く覗きこんでくる。 「どうしたんだ、飲み会の幹事が多少上手いこといかないなんてよくあることだよ、そう落ちこむな」 「俺は幹事じゃないのに……」  天音がぼそっと呟くと、三喜雄がぷっと吹き出した。 「オペラ基礎の試験前も思ったんだけど、塚山ってもしかして、失敗とか怒られることに慣れてない子?」  意味が分からなくて、じっとりと三喜雄を睨みつけてしまった。彼はきれいな形の目に、笑いを浮かべる。
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加