番外編 姫との夏休み

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「あのさ、たぶんみんなおまえのこと責めてないし、代金を追徴したことなんか夏休み中に忘れるよ……次に同じことやらかさないように、気をつけたらいいんだ」  そう言ってから三喜雄は、何か面白い、と微笑して呟いた。そして、切ったハンバーグの上に大根おろしをナイフで器用に載せてから、フォークで口の中に運んだ。天音はそんな三喜雄の様子に毒気を抜かれてしまい、飲み会の話はもうどうでもよくなった。ただ、もし次回幹事を押しつけられそうになったら、三喜雄に手伝ってもらおうと思った。 「このファミレス、中学生くらいまで父親と母親と……ばあちゃんとちょこちょこ来たんだ」  普段家族の話をほとんどしないせいか、三喜雄は天音の話に興味を示した。 「塚山家でもファミレス使うのか」 「だから俺ん()はセレブじゃないって言ってんだよ……中3の今頃が最後だったかな? それから俺が高校受験体制に入って、特別な日以外の外食は無くなったな」  自分も歌い手である母は、天音に同学年の歌う友達(少なくとも天音の認識では)ができたと知り、家に連れて来いと今でも言うのだが、どちらかといえば寒めの家の空気を三喜雄に感づかれたくなくて、拒んでいる。仮に塚山家がセレブであったとしても、天音は三喜雄から聞く彼の家庭のほうが羨ましい。  三喜雄の母方の祖父母は音楽愛好家で、孫の舞台を必ず観に来てくれたという。天音の父方の祖母はこれまた声楽家だったので、天音が歌うと観に来てくれたが、とにかく目が厳しかった。良くなかったところをがんがん指摘し、三喜雄の祖父母のように、ホールに差し入れを持って来て、家に帰るとべた褒めしてくれるなどあり得なかった。  天音はざっくりと祖母について話し、自分は怒られることに慣れていない子ではないと三喜雄に言った。なるほどね、と彼は応じ、サラダをフォークでつつく。 「でも失敗したくない子だろ? 失敗を責められたくない子って感じかな?」 「誰だって失敗は責められたくないだろが」 「それもそうか、自責の念に駆られてるところにそれは辛い」  また三喜雄に弱みを見せてしまったような気がしつつ、他愛ない話のうちに昼食を終えた。そこそこ満足してファミレスを後にする。太陽が高くなり、少し暑いということもあり、木陰で涼を取れる場所に自転車を走らせた。
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