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天音は後頭部を連続で数発殴られたような気がした。俺が感じ悪いのか! それにおまえら、何で互いを名前で呼び合ってるんだよ!
小田は笑いを堪えられない様子で、微かに肩を揺すっている。天音は彼を睨みつけた。こいつ許さん、俺は片山と5年以上つき合ってるのに、名前呼びなんか一度たりともしたことがない。その上、俺が片山に喜んでもらいたくて日暮里で途中下車して買った、販売個数限定のプリンまで食うなんて、どれだけ厚かましいんだ。
天音は忍耐力を振り絞り、平静を装って三喜雄に笑顔で言った。
「そうだな、おまえに渡した見舞いなんだからおまえの好きにしたらいい……また後でな」
「うん、昼メシ食いっぱぐれるなよ」
天音は三喜雄の気遣いを受けてその場から去ったが、学食が混雑しているのを見て、ますますはらわたが煮えくり返った。ドビュッシーでもブラームスでも歌曲なら興味が無いので、次の授業をサボりたくなってくる。
すると天音の肩をつついた者がいた。振り返るとそこにいたのは、肉食スザンナ・太田紗里奈だった。
「席無いならここ来なよ」
紗里奈はエナメルのバッグが置かれた椅子を顎でしゃくる。その蓮っ葉で横柄な仕草は、完璧にスザンナではなくカルメンである。
「あ、悪いな」
やや警戒しつつ応じると、紗里奈は目を細めて天音を威嚇するように言った。
「天音……塚山くんに話あるからちょうど良かった」
「……俺もおまえに言っときたいことがある、メシ買ってくるからちょい待て」
喧嘩を売られたことを察した天音は、紗里奈の返事を待たずに食券を買いに行った。
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