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「片山に嫌な思いをしてほしくないだけだ」
「失礼ねぇ、楽しい思いをさせてあげられるかもしれないよ? みっきぃの経験のチャンスを奪うのは、保護者としてどうなのかなぁ」
「黙れ、清らかな三喜雄は無駄に女に遊ばれる経験なんかしなくていいんだよ」
サンドウィッチのパンに、ストーンが光る美しい爪が食い込んでいる辺り、紗里奈も苛々しているようだった。こうなれば根比べだ。天音は鼻から息を抜く。
カルメンあるいは女マントヴァは、声を潜めて鋭く言った。
「とにかく誤解を解いてよ! みっきい、あんたが私とよりを戻したくて割りこんで来るって勘違いしてて、私がお茶に誘っても『塚山に怒られるからやめとく』って言うんだから! マジ迷惑なんだけど!」
天音は思わず爆笑してしまった。紗里奈の口真似が巧みで、三喜雄が無意味な遠慮をしている姿が目に浮かぶようだったからである。
「笑い事じゃないって!」
「クッソウケたわ、片山には誤解しといてもらおうか」
天音は一旦アドバンテージを取ったことを確信して、キッシュにフォークを入れた。紗里奈はコーヒーをずずっ、と音を立ててストローで吸い、カップを乱暴にテーブルの上に置く。
「あんたのそのキモい独占欲からみっきぃを愛の力で解放するから、神の審判を待つといいわ」
キモい独占欲という言葉にかちんときた。
「おまえは勘違い十字軍か……自惚れんなよ、おまえみたいなガツガツした女は片山の趣味じゃねぇって」
「そんなのあんたの決めつけでしょ!」
2人とも声が通るので、人目が集まってきた。これ以上のヒートアップは自分の名誉を毀損する事態に繋がると思った天音は、吠えるソプラノを放置して、食事に集中した。
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