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三喜雄は冷蔵庫の野菜室を開けた。レタスを洗って千切り、トマトときゅうりを手早く切ってレタスの上に散らす。天音は彼に言われるまま、玉ねぎのドレッシングを回しかけて、小さなテーブルの上に置いた。立派なピザパーティである。
「なあ片山、杉本先生の講評どうだった?」
早速訊く天音を座らせて、三喜雄は皿とフォークとグラスを2人分並べ、缶ビールのタブを起こす。
「え? 暗譜間違いを幾つか指摘されたのと、俺が落ち着き過ぎてて、若い後妻をもらうおっさんっぽいって」
杉本の語彙に天音は笑った。
「面白い……そりゃスザンナのテンションに合わせなきゃ駄目だな」
三喜雄は2つのグラスにビールを注いで、とりあえず乾杯、と言った。かちんと高い音を立てて、グラスが合わさる。ビールは冷え過ぎずぬるくもなく、美味だった。
「でも太田さんも俺との距離が常に近過ぎて、誘惑してるみたいでスザンナじゃないって言われてた」
天音は三喜雄の言葉に、ビールを噴きそうになった。あのあばずれ、杉本先生に下心を見抜かれたな。
三喜雄は苦笑する。
「たぶん大学時代ならこれで大目に見てくれたと思うんだ、やっぱ芸大の院は厳しいな」
同時にマルゲリータに手を伸ばす。糸を引くチーズが、見るからに美味しそうだ。
「おまえのフィガロがおっさんくさいとは俺は思わないけど、太田はまあな……」
天音はピザにかぶりつく。チーズが熱くて口の中が火傷しそうだが、美味しい。にぶちんの三喜雄に、この際はっきり言っておこうと思う。
「あいつおまえとつき合いたいらしいんだけど、絶対やめとけ……あれは見境なく男を味見したがるえぐい女だ」
三喜雄は口をもぐもぐしながら、目を丸くした。ピザを飲み下して訊いてくる。
「俺が目標なの? 塚山は太田さんとよりを戻したいんじゃないのか」
誤解しておいてもらうのは、こうなると難しかった。天音は事実を打ち明けた。
「違う、一生無い」
「あ、そうか……何にしても、元カノ相手に酷い言い方だなあ」
「そこでどうして俺が悪者なんだよ!」
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