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「だって先週から何だかときめくピンカートンみたいに作り直してるし、リアルでいいことあったのかなって」
天音はどきっとした。不意打ちだったので、誤魔化しきれなかった。瑠美は頬に血を昇らせた天音を見て、口許に浴衣の袖を当てる。
「おほほ、旦那様、言葉になさることはございませんよ……わたくししか気づいておりませぬ、他言もいたしません」
「……誰なんだよ、スズキですか?」
非公開の試験といえども本番前である。あまり心の中に引っかかるものを置いておきたくなかったので、正直に答えた。
「いや……その、彼女とかじゃなくて、こないだの講評の後、片山と飲みながらガチンコで役作りの話をしたんだ」
実は天音は、三喜雄の家で飲んだ時に経験したあれこれを、ピンカートンの役作りに投入している。三喜雄に覗き込まれてどきどきしたことや、みっともなく潰れた自分の面倒を甲斐甲斐しく見てくれた彼の姿が、何やら愛おしかったことを思い出しながら歌ってみた。
最初は男友達をおかずにして自慰をしているような痛い気まずさがあったのだが、瑠美が自分と対等に歌おうと頑張っている様子も相乗効果となり、蝶々さんへの慈しみのようなものを掴んだ気がしている。すると瑠美の蝶々さんが、恥じらうだけでなくやや大胆な熱い視線をこちらに送っていることに気づき、歌いながら受け止め微笑み返す余裕が出てきた。
「……みっきぃと飲んでてときめくピンカートンが爆誕したの?」
瑠美の表情に、変な笑いが混じり始めた。天音はぎょっとして、声を抑えながら言った。
「待った、北島さんの妄想してるようなBL展開じゃないぞ」
瑠美はわざとらしく肩をすくめる。
「やだ、私塚山くんにBL読むって話したことあったかしらん?」
「みんな知ってるから」
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