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あっ!!
「すみません。フロントで、借りたんですが……。カードキーが間違っていたみたいですね」
「よかったです」
顔を見た瞬間。
安心して涙が流れてくる。
「あっ、すみません。入って下さい」
「こちらこそ、怖い思いをさせてしまったようですみませんでした」
「いえ、そうじゃないんです。亮太さんが、奥さんに連れて行かれたんじゃないかって。そしたら、夫が来たんじゃないかって……。ごめんなさい。勝手に不安になってしまって」
「いえ。目が覚めて誰もいなかったら不安ですよね。その気持ち、よくわかりますよ。何か温かいものでもいれましょうか?」
「あっ、じゃあ。私が……」
「怖がらせたんで、俺がやりますよ。瑞穂さんは、座ってて下さい」
「わかりました」
彼は、ホテルの備えつけのポットでお湯を沸かしてくれる。
その後ろ姿を見ながら、やっぱり優しくて素敵な人だと思った。
「どうやら妻は、俺を心配してなどいないようです」
「そうなんですか?」
「実は、さっきまで探偵さんが来ていて話していたんです。それで、いろいろ教えてもらって」
「大丈夫ですか?」
「どうしてですか?」
「何かすごく辛そうに見えたので」
「そうですか……。辛いとか悲しいとかじゃなくて。何かもう呆れちゃったというか……」
彼は、お茶を入れて持ってきてくれる。
「明日……探偵さんに話を聞いて全てを終わらせようかと思ってます。瑞穂さんは?」
「私も全てを終わらせたいです」
「お互いそうしましょう」
湯飲みをカチンと合わせて、お茶を飲む。
身体中に温もりがゆっくりと広がっていく。
夫との事を全て終わらせたい。
終わらせて、新しい場所に進んで行きたい。
「話変わるんですが、小山田さんの息子さんの件は見届けたいと思っちゃうんですよね」
「それよくわかります。私も最後まで見届けたいです。小山田さんにくだされる判決は、未来の夫がくだされる判決でしょうから……」
「俺もそう思ってます。いつかの未来に妻がくだされる判決だろうと」
「それだけは、どうにか知りたいですね」
「明日、探偵さんにそちらも調べてもらおうかな」
「確かに……。離婚して、離れてしまえば知る術がないですもんね」
「そうです。だから、明日お願いしようかな」
彼と話すだけで穏やかな気持ちになれる。
でも、一緒になればみんな同じなのかも知れないと思うと……。
私は、きっと彼の手を掴んで逃げられないだろうと思う。
今は、まだ離婚していないし……。
夫から、私を守るって気持ちもあったと思うから。
でも、そんな気持ちは長くは続かないから……。
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