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生活音なら許される?
「車検が通る車なのよ!そんな事言われたってどうしようもないじゃない。だったらあんた達のやり方で追い出せばいいじゃない」
「車検が通れば何に乗ってもいいと思ってるのか」
「だいたい、みんなが迷惑していないと思っているのがおかしいんだ!みんなに聞いたら大丈夫だと言ってもらえたなどと嘘をつきよって」
「嘘じゃないわ!裏の方も皆さん、気を遣ってるって言ってくれてるわよ」
「だからってどんな車を乗ったっていいって事にはならないよ!生活音だって言えば何でも許されると思うなよ」
「そうだ!そうだ!生活音って言ったって限界があるんだ!」
「皆さん、落ち着いてください」
警察も市役所も動かなかったのは明白だ。
自治会長さんのお陰で、ここの住人は纏まっている。
「気づいていないなんて嘘ですよね。みんな優しいから」
「優しい人達ほど、怒ると怖いんだよね」
「そうですね」
瑞穂さんと一緒に近隣達を見つめる。
優しさは怒りに変わった。
もう、今は、隣人間の問題ではない。
それをわかっているのに小山田さんは、ずっと他人事のような発言だ。
いや、他人事なんだ。
息子に決定権がある以上、答えを委ねるしかない。
委ねた所で、息子は車を変えてはくれない。
「皆さんとしては、駐車場を借りて欲しいようですよ」
「駐車場を借りた先で何か言われるかも知れないし」
「それは、借りてみない事にはわからないじゃないですか」
自治会長さんだけが、優しく話す。
他の皆さんは、苛立っているのがわかる。
「もう少し、規制をしてくれたらいいのかも知れないですね」
「確かにそうですね。住宅地で車を乗るなら何CCまでとか。明確な条件を国が決めてくれていたら、こういうトラブルは少なくなるでしょうね」
「そうですよね。違法改造車じゃないならいいじゃないって言うのも間違っていますよね。車検に通る車であっても困っている方がたくさんいるんですから……」
「それでも、生活音だって言われるんですよね。警察には……」
「その生活音が堪らなく五月蝿くてもですよね」
「海外の車は、もっと大きくて広い場所で乗って欲しいですね」
「そうなってくれたら、隣人トラブルは起きないですよね」
自治会長さんが駐車場の案を出しても、小山田さんは「借りた先で、揉めたら困る」と繰り返す。
結局は、自分の事しか考えていないのだろう。
「そんな車に乗りたいなら、もっと広い土地を探せよ!」
「そうだ!そうだ!」
「軽四と違うのよ!外車なんだからそんなもんでしょ!生活音よ」
「話にならないぞ」
「そうだ、そうだ」
全員の怒りが頂点にたっているのがわかる。
「すみません」と言うのが嫌なのだろう。
剥き出しにした顔で、「生活音」だと怒鳴り付ける。
「あのさーー。さっきからあんた何言ってんの?生活音って言うなら、俺が朝からトランペット吹いても許されるんだよな?」
「そうそう。私が、ニワトリ飼っても生活音になるわよね?」
「そうだ!そうだ!そうだ!」
瑞穂さんと俺は顔を見合わせる。
「言ってる事は、間違っていないんですけどね。でも、論点はズレてる気がしますよね」
「そうですよね。でも、今、みんなにとっての希望にはなってる気がしますね」
「ですよね」
自治会長さんが、皆さんを宥めている。
しかし、皆、生活音で、許されると思うなと大声をあげている。
今日中に、問題が解決する気配はない。
「今日は、もう終わりにしましょう。私がいったん持ち帰って、皆さんの言い分を紙にまとめて持ってきます」
「ってか、小山田さんを庇ってる佐々木さんも同罪なんじゃないの?佐々木さんが、生活音だからとか一緒に言ってるんでしょ?」
「本当だ!本当だ」
「私は、そんな事してません」
「どうだかね。今、我々が声をあげたからそう言ったんじゃないのか?」
「皆さん。こうやって集まって、責め合いをした所で何も変わりませんよ。いったん持ち帰って、話をまとめてもう一度皆さんにお話させていただきますから」
自治会長さんが大変な思いをしながら、皆さんを止めているのがわかる。
「行きましょうか。解決はしなさそうですから」
「そうですね」
俺と瑞穂さんは、その場を離れる。
騒音主と騒音を受けている被害者は、分かり合える事はあまりない気がする。
それは、仕方ない事なんだけど……。
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