猫のふくしゅう?

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猫のふくしゅう?

 猫又はククク、と不敵に笑った。 「聞くところによれば、たいていのマンションはペット厳禁というではないか。ワシが叫んだら、果たして貴様はこの部屋に入れるかな?」 「意外と頭良いですね」 「意外は余計だ」  猫又は拗ねている。とはいえ確かにマンションはペット厳禁だから、頻繁に鳴かれたら、こちらとしてはかなり困る。 「ククク。貴様、早くうまいものを渡さなければ、思いっきり泣くぞ」 「字面にすると、かなり情けないこと言ってますね」 「余計なお世話だ」  と言うわけで、猫又の『復讐』に付き合うことにした。  今、私と猫又は台所で、テーブルを挟んで座っている。猫又の前には、皿が置かれており、黄色い円状の物体が、その上に乗っかっている。 「なんだこれは」 「プリンって言います」  冷蔵庫を漁ったところ、三日前に買ったプリンが、まだ棚の中に残っていた。  その食べ損ねたプリンを、猫又の目の前にだす。 「なんかこれ揺れているんだけど。気持ち悪くない?」 「気にしすぎです。怖いんですか?」 「はぁ? 怖くないし。全然平気だし」  強がる猫又の手元をみると、何もなかった。そういえばスプーンを出し忘れていた。キッチン脇の棚に向かおうと、立とうとした時。、猫または頭からプリンに突っ込んでいった。  そして顔をぶつけるようにプリンを口に入れる。  飛び散るプリンは、皿の上をはじけて、テーブルに飛び散った。  これは片付けが大変だ。私ガックリと肩を落とした。  けれど、猫又の顔を見て、そんな思いはどうでもよくなった。プリンを口にした猫又は満面の笑みを浮かべていた。 「ん、人間。何を笑っている?」 「……え。私、笑っていました?」 「貴様。やっぱり馬鹿にしているだろ。思いっきり笑っているぞ」  そう言われて、もっと笑ったほうが良いと言った、先輩の顔がよぎった。そうか、私、笑っていたんだ。 「そんなに貴様は我の顔がおかしいか?」 「思ってないです。おかしな奴とは思いましたけど」 「もっと酷いこと思っているじゃないか!」 「いやぁ、なんというか……」  私は両手で机を叩いている猫又に向かって言った。 「美味しそうに食べている姿って、良いなって思ったんです」  きょとんとした顔を浮かべ、猫または固まった。 「それって我を誉めているのか?」 「いえ、誉めてはないです」 「……ふん。どうとでも言うがいいさ。我の復讐はこんなものではないからな」 「復讐?」 「これからもっと美味いものを、たかりに来るからな。ケーキよりも美味いものをな」  それはなんとも傍迷惑で、けれどどこか楽しい申し出だった。 「そちらこそ覚悟してくださいよ。今度きた時は、シュークリーム用意していますから」 「なんだ、そのシュークリームというのは。教えろ貴様!」 「それはまた今度ですって」  猫又は恨めしそうに、私を睨んでいた。  一週間後。もっと復讐がしたいからと、猫又が完全に私のアパートにいついたのは、また別の話である。
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