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月夜の遭遇
「ねぇ美優ちゃん、そこにいるぅ?」
扉の向こうから、ややエコーの掛かった優花さんの声がする
いますよー言われた通りにちゃんとドアの前に座ってますー
我ながら絶妙に棒読み気味なのが感じられるけど…この数分間に…いや十数秒に一度、呼び掛けられていたら、どんな看護士さんだってこうなる
いや、普通ならトイレの前に待機なんてしない
「済んだらボタン押して呼んでくださいね~?迎えに来ますから…」
これが病院勤めしていた際に教わった、患者さんとのトイレやお風呂のマナーだから
まあ、今やカフェ店員だからそんなマナーもルールも関係ないんだけど
今トイレに籠城(笑)している優花さん、何でもお化けが怖いそうで…この夏温泉で怪人?妖怪?狼人間?まあ、その類を相手に大立ち回りを演じてあたし達を守ってくださったのは一体…
あの凛々しい、ヒロイックな優花さんはなんだったんでしょう…?
「美優ちゃん、ちゃんと見張ってくれてる〜?」
エコーの掛かった優花さんの声がする
大丈夫ですよーってか、まだなんですかぁ?
「いやー、頑張ってはいるんだけど…」
はあ…仕方ない…他でもない「お姉ちゃん」の頼みだ、寝落ちしないようにしないと!
でも…お化けなんて存在しないとあたし堀井美優は思うんですけど
深夜の安置所とかにも出たことないですし
あ、看護士時代に病棟の夜回りがあったので、そんなの怖がってちゃ勤まりませんから
ただ今回の事の発端は、お風呂上がりに見たテレビの怪奇特集番組にあるのは間違いはなく…
いつもはここまで怖がったりされないのに
そう、優花さんの深夜のトイレには必ずと言って良いくらいお伴させていただいてます!
同室だからそこは構わないんですが
他にも適任の人がおられると思いませんか?いえ、秋さんとあたし以外は皆さんとんでも無くお強い方ばかりじゃないですかー?
猫さんに冴香さん、ハルキさんにシイナさんって、何処かの軍隊が攻めてきても平気そうな人しかいませんし、時々泊まりに来られるゆかりさんや泰子さんだってそうじゃないですか〜?
…猫さんは男の人だから頼み辛いのはわかりますけど…
トイレに辿り着くまでのお部屋には冴香さんもハルキさんもシイナさんもいらっしゃるんですけど…
薄暗い廊下に一人で出るのが、先ず怖いそうで
どれだけお嬢様育ちなんだろう…猫さんに聞いた限り秋さんも「かなりの」お嬢様らしいんですけど、全くもって平気みたいだし…
今も「仕事部屋」から物音が微かに聞こえてくるから、きっとお一人で譜面か原稿と格闘されているんだと思われる
大体お化けが怖いのに何故あんな特集番組を見たがるんだろ…
まあ、深夜のトイレくらいいくらでも付き合わせてもらいますけど
忘れてたけど、今日のこの時間はハルキさんとシイナさんがビーチの見廻りに行っておられるから、海からは何も来ないと思う
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