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「もー、〆切近いって言ったじゃないのぉ」
あたしが慌てて出て来た時には、秋さんのボヤきが仕事部屋から聞こえてきた
覗いてみると優花さんが床にへたり込んで、回転椅子に腰掛けた秋さんの浴衣の脚にしがみついて震えていた
口では文句を言いながらも、優花さんの頬を撫でてあげている
出たって、何が出たんです?
「お、お化けに決まってるでしょーが!ネコ、ネコ、ネコの!」
冷静に尋ねてみたあたしに返ってきたのは、涙目の優花さんからの、当然と言えば当然の答えだ
…あれ?猫さんと冴香さんが出て来てない?いつもだったら真っ先に飛んできてくれるのに…
あたしの疑問が顔に出ていたのだろう、秋さんが頭を掻きながら
「あー、美優ちゃん?えっと、その…うん、ネコと冴香ちゃんのことは…あの…オトナの恋人同士には、その、色々とあるのよ…」
ちょっと悔しいけどね…
そう小さく呟いておられたので、なんとなーくだけど、あたしにも理由がわかった
羨ましすぎる…
じゃあ冴香さんは今日はアテに出来ないな…
「ネコ、ネコ、ネコの…」
優花さんが部屋の外を指差して、どうも震えているようだ
「呼びました?」
やっぱり男性は身嗜みを整えるのが早い…下着履いて浴衣羽織るだけだもん…
猫さんが部屋にひょっこり顔を出した
いつも通り?の一糸乱れぬ浴衣姿だ
秋さんが人の悪い笑顔で何やら唇だけを動かしていた
それをみた猫さんは頬を指で掻いていた…成る程、そう云う事…
と、猫さんを見つけた途端、優花さんの目が輝き…今度は抱きつく対象を変更したようで
瞬時に猫さんに抱きついていた…これ冴香さんに見られたら大変な事になるような
お気持ちは十二分に理解出来ますが
「ほら、秋ちゃんは忙しいんですから、ここからは失礼しますよ?ごめんね、秋ちゃん?」
しがみついて離れない優花さんを軽々とお姫様抱っこで抱き上げ、秋さんに謝っておられる
あたしも慌てて頭を下げて猫さんの左側に並ぶ
ふと、冴香さんのシャンプーの香りがした、猫さんから
「いーのよいーのよ♫今度ネコと冴香ちゃんに何かお返ししてもらうから♫あー、楽しみだわ?」
あれは…「石の山」狙いだな…
「じき、ハルとシイも帰ってくるでしょうし、それまでお二人の部屋で詳しく話しを聞かせてもらえますか?」
優花さんはひたすら「ネコのお化けが出た」を連呼されてる
猫さんは猫さんで、「こちらでネコちゃんを飼ってたって聞いてないんだけどね〜」とどうも緊張感が足りない
「いましたもん!毛足の長い金色と白色の毛並みの大きめのネコが!その子が縁側の雨戸にスーって消えて行ったんだもん!」
…因みに優花さんは別に猫アレルギーではない
それがこれだけ幼児退行するとは…相当お化けが怖いんだろうけど
「今島中に優花さんの悲鳴が聞こえたから慌てて戻って来たんすけど、どうしたんすか?」
「人の姿も野良ちゃんの姿さえも見掛けなかったのに、家から優花さんの声がするからびっくりしちゃったわよ〜?」
程なくハルキさんとシイナさんが戻って来てくれたので、優花さんの話しを通訳する
と、ネコの毛色と毛足を聞いた途端、お二人の顔が真っ白になったのをあたしは見てしまった
…猫さんもそれに気付かれたようだけど…どうもお二人の反応から、何やら事情を察したみたいで
大きな溜め息をひとつついておられた
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