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それでも……。ヘリオに見せられたあの蝶が未だに気になっている。新しい星に降り立つたびにあの蝶を探している。そして、いないとわかると落胆してしまう。
ルカ家門を出てちょうど十年経った日。私はある辺境の星に足を踏み入れた。まさに辺境。取り立てて資源のないその星は植民されてからそれなりに経つのに、未だに乱雑な雰囲気を持っていた。
この星を訪れるのは初めてだ。
けれど、似たような星なら何度も訪れた。そしてこの星にもある埃っぽい大通りは、やはり一癖も二癖もありそうな住人たちでごった返している。
その人波を縫って進みながら、何気なくを装って私は周囲の店を観察していた。商品は大抵ガラクタなのだが、こんな星にはたまに面白いものが眠っていたりする。
そしてある店の、煤けたショーウインドウに飾ってある標本箱が目に止まった。
最初冗談かと思った。それとも見間違いかと。だが、思わず駆け寄って、ガラスに顔を押し付けて見た結果も変わらなかった。
あの蝶だ!
ヘリオの蝶!!
間違いない!!
「姐さん、その標本が気に入ったのかね?」
薄汚れたドアが開いて、店主が顔を覗かせた。思わず振り向き、店主に詰め寄った。
「あの蝶は、この星の生き物なのか?!」
「おう……? い、いや違うさね、隣の星系の居住可能性調査のリストに載ってる惑星のものだって聞いとる……あ、いや……噂でってことだ」
私は財布を引っ張り出した。金があるように見せかける方の財布を。
「この標本言い値で買おう。ただ、その噂をもっと詳しく聞かせてくれ。この蝶は正式新種発見公表されてない?」
「……五百だ」
出された手に、宝石をのせる。店主はニヤッと笑った。ただのガラクタとしては、定価よりかなりふっかけられたのは分かっていた。だが、新種の生物の標本を買い取る金額として安い。
「この蝶、骸以外見つかっていないんだと。それに、解剖するとなんかナノマシンみたいにも見えるとか。それで、生きてるところを発見しないと、新種生物かそれとも人工物か判断つかないという話しだった。
まぁ、その標本のやつが見つかった惑星はGY76って言うんだが、なんかいまいちパッとしない星らしくてな、リストに載ってても現地調査もほとんど行われてない……って噂だ。俺が知ってるのはそれぐらいさね」
「分かった。ありがとう」
私は、標本を受け取ると幼い子供のようにそれを大事に胸に抱えて歩き出した。
その行動が、自分でもバカみたいだと思わなかったわけではない。子供の頃の感傷を思い出しているだけだと、自嘲しなかったわけでも。
それでも、私は次の目的地を決めていた。
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