1人が本棚に入れています
本棚に追加
<アゲハ様>
<救難信号の発信源です>
<どうぞ、ご覧ください>
部下のアンドロイドたちがいたのは、花畑からちょっと降ったところにある海岸の洞窟だった。洞窟といっても、崖がちょっと抉れた箇所で、光が燦々と降り注いでいる。
その光に照らされて、脱出ポットが二つ波に洗われていた。
よく見るまでもなく、それはリブロでよく使われるデザインの脱出ポットだ。
大きく刻印されているのは懐かしいヘリオの船の名前。私はかすかな期待と絶望を胸にそのポットに近づいた。
中が確認しようと小窓を覗き込む。
「お母様……」
ポットの中の人物は完全にミイラ化していた。けれど、チラリと見えたピアスのデザインで母だとわかった。
そして。
「ヘリオ……」
隣の脱出ポットの中には憧れた冒険家が、ミイラになって眠っていた。
私はその場に崩れ落ちた。
でも、泣くことはできなかった。さっきの蝶の乱舞で感情を使い果たしていたのか、それとも、二人の不在が感情を揺すぶる力も無くなるほど長い時間だったのか? それはわからない。
私は呆然とかつては脱出ポットだった棺を眺めていた。
<間違いなくお二人ですね>
「ええ、そうね」
ノーウの言葉に頷くのがやっとだった。
<アゲハ様、もう一度ポットの小窓を見ていただけますか>
すぐ隣にいたアンドロイド・エクンチはそう言って、私を立ち上がらせる。何? こんなところで自分勝手に死んでる親の顔なんかもう見たくないの!!
<これが見えますか?>
エクンチは母の脱出ポットの窓にこびり付いている赤茶けた汚れに、片方の手の情報端末をかざす。そして、もう一方の手のひらに解読した文章を映し出した。
そこには……。
最初のコメントを投稿しよう!