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相談
「隣り空いてる」
「はい」
僕は戸惑いながらも、ベンチの端に移動して、隣りの席を空ける。
「ありがとう」
冴子さんはそう言って、僕にくっつくぐらいの距離で座った。
「何か悩んでない」
「えっ、あ……、はい」
呂律が回らない。緊張して、彼女の質問に何も答えられない僕がいる。
「答えなくてもいいわ、ただ遠くで見てて気になったから」
「えっ」
驚きのあまり、僕は目を見開いて冴子さんの顔を見る。
「勘違いしないで、これでも貴方の上司だから、部下に気を使うのは当然でしょう。佐伯くんを指導している先輩社員から報告は受けてるしね」
「どんな報告ですか?」
初めて冴子さんに話しかけた。胸がドキドキする。
「いろいろよ、よくやってくれてるって褒めてたわ」
「俺、何も出来てないですけど」
「新入社員だから、出来ないところがあるのは当然よ。そこを出来るように伸ばしていくのが先輩社員の役目でもあるからね。お願いしている資料は完璧で助かってると言ってたわ」
「そうなんですか、怒られてばかりですけど」
「怒られてるうちは大丈夫よ。みんなに期待されているから怒られるの、だから頑張って」
僕のドキドキが感動に変わっている。
なぜ、冴子さんがリーダー的な存在で、みんなから一目置かれているのか、その理由も何となく分かった。
「ありがとうございます」
僕は、冴子さんに向かって頭を下げる。
「元気が出たようで良かった」
「はい、実を言うと悩みがありまして」
僕はそう言って、占いの館に行ったことを話した。
「好きな人との相性が悪かったんだ」
「そうなんです。あっ、これ誰にも言わないで下さい。みんなの知らない人ですから」
僕は照れくさそうに言った。
『冴子さんのことです』なんて、口が裂けても言えなかった。
「そのカードってどんな模様だった?」
「月が描かれてました」
「どっちに向いてた?」
「僕から見て、逆さまでしたね」
「それって大丈夫ってことじゃない」
「えっ、どういうことですか?」
そう言いながら、僕は首を傾げる。
「月のカードには悪い意味が込められている。それは事実だけど、逆さまだったら、反対の意味があるの」
「えっ、そうなんですか。それじゃ占いの結果は……」
「不安や誤解からの解消、過去からの脱却、好転し始める、問題に光が差す、未来への希望、と言ったところかな。最高の結果だと思うよ」
冴子さんはサラッと答える。
「本当なんですか、やった」
「だから頑張って、期待しているから」
「ありがとうございます」
どんよりしていた僕の心が、冴子さんとの会話で晴れ晴れとしていた。
「さぁ仕事よ、行きましょう」
「はい」
僕は会社へと戻る。
冴子さんと肩を並べて一緒に歩ける喜びまでついてきた。
「昨日の占い外れてるじゃないか。何なんだよ、あの占い師」
そんな憤りもあったが、嬉しい誤算なので、許すことが出来た。
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