ひとのゆめ

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ひとのゆめ

 全てにおいて、終わりがある。 サヨナラだけがこの世の中で信頼における1つの節目。 なら、何故涙は滴り落ちるのだろう。 全てが歪む世界で自分を客観的に捉え、損得を捨て天秤にかける。本来の意味の忖度。  歩道はひとつから2つに別れ、互いの背中を見送ることも無く過ぎ去る。 手を繋いだ時間が長いほど、独り歩む道は険しく進みが遅くなる。 それでも、哀しながらに、生を全うする。  歩く足に感じる負荷。所々に散らばる鋭利な石。 ただ進むだけと思っていた道が少しづつ天へと登る。涙の代わりに額を濡らす汗を拭きながら、ただ見える道を歩むしかない。  いつしかたどり着いた頂点。眼下に広がるまだ知らない道の数々。小さく見える数多の後ろ背中は、果敢に目の前の刺客を飛び越える。 走り去る者、休みながらでも前に進む者。立ち止まり歩むことを怖がる者。 全てが生に抱かれながら、守られながら、苦しめられながら進んでいる。  己の道は、ここで崖と化す。 命綱もなしに、ただ張り付きながら降りるのみ。 登って震える手足に鞭を打つ。 ただただ遠く真下に見える地上へ下る。 外れそうな飛び出る石に助けられながら、しがみつきながら、体を下へと運ぶ。 途中掴んだ石が小さい悲鳴をあげた。 私の重さに耐えきれなく、石が外れ落下する。 遠くの地面で割れた音がした。 心の奥底で謝罪の言葉が沸きあがる。 口に出た時にはもう外れた石の行方を見つけることは出来なかった。  度重なる試練を超えた先に、他の道が己の道と合流し、新たな出会いを繰り返す。 過去に置いてきた後悔と懺悔を胸に新たな交わりに感謝し、時の流れは緩やかにスピードが上がるのを実感する。  そして、ひとつの道が途切れ、私はまたひとり歩む。  長く歩いた。 そろそろ潮時だ。  1度も振り返ることのなかった辿った道を見つめ、ただ、全てが私を赦す。 歩んだ道の全てにそれぞれに私という部品が落ちていた。それを全て使って歯車が動き出す。 全てに意味があり全ての記憶が私の頭に蘇る。 忘れ去ったと思っていた過去の感情は、全て私を構築する骨組みになっていたことに気がついた。 関わった全ての道が私をつくりあげてくれていた。 嫌った者も好きと伝え別れた者も全て、私にしか持つことの出来ない財産だった。 そして、それを体験出来る私を作り出したものは、私本人だ。  最後は自分へ別れを告げる。  思い出した全ての映像と感情を抱きしめ、箱に入れて火で燃やす。 たかが私が歩むだけなのにも関わらず、受け入れてくれたモノを全てに感謝を伝えた。 そして私自身に愛を持って、箱に入る。 箱舟は川を進んで歩んだ道とは違う道の始まりに連れていく。  私はゆっくり目を閉じた。 次歩む時はもっと色んな体験が待っていることを願って。
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