マーク・オースティン

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調子のいいジャックが楽しそうに取った音頭に渋々乗った俺は、頬杖を突いたまま空のグラスを軽く上げる。グラスがないマークは口元を品良く緩めて俺らを見つめるも、その保護者的な眼差しが面白くない俺はチッ……と舌打ちをしながらそっぽを向く。 「……お話中申し訳御座いません、只今アラン様宛の封書が届きました」 リビングの入り口で小さくお辞儀をした声の主は、俺が生まれる前からこの家に奉公しているケニーだった。10年前のイブ、父からの伝言と俺の食事を自室に運んだ彼女は生前のアリーシャを知る数少ない使用人のひとりで、歳を感じさせないほど矍鑠(かくしゃく)とした老婆は恭しく長型の封筒を差し出す。俺の代わりに立ち上がったマークは和かな笑顔で「ありがとう」と答えると、振り返って受け取った2通の封書を見せびらかした。 「誰からだ?」 「ええっ……と……1つは江華貿易商で、もう1つは……」 「もう1つは?」 「……噂をすれば、だね。アランお待ちかねの、レオ・アルジャーノからだよ」 困ったように眉尻を下げるマークはそっと俺に封書を手渡すと、赤い蝋留めのついた仰々しい便箋に乱雑な筆跡が踊る。 『親愛なるアラン・グレイ殿』 宛名に書かれた心にもない社交辞令に反吐が出そうな気分の俺は、虎の文様が刻まれた蝋を勢い任せに割って中身を確認する。割れた拍子に砕けた破片がパラパラと散らばって机や床を汚すも、そんな些細な事を気に掛ける余裕のない俺は、三つ折りの紙を食い入るように見据えた。 『 アラン・グレイ殿 暑さも一段と増してくる今日この頃、いかがお過ごしでしょうか? 先日、前グレイファミリーのボスであるヘンリー・グレイ殿の急病及び引退の意向を聞き及びました。それにつきましては、多少の面識がある当方としても遺憾にたえません。 さて、ヘンリー殿のボス引退により、アンダーボスであるアラン殿の就任と相成りましたが、これに際しまして我々スリザード始め、数多あるファミリーの承認を得る必要があります。 よって、アラン・グレイ殿へコミッション参加を依頼致します。 日時は8月18日の17時、必ずこの書面を持参の上、同封の地図に明記致しました場所へお集まり下さい。尚、コミッションの議題に上がりました内容等につきましては、他言無用にてお願致します。 会場にてお会いできる事を、一同、心より楽しみにしております。 最後となりましたが、お体には呉々もご自愛下さいませ。 レオ・アルジャーノ』 「クソが……ッ」 上手く感情が言葉とならない俺は直筆の署名と捺印まで読み進めると、のうのうと定型文のような手紙を寄越した容疑者への怒りを抑える事なく床を踏み躙る。転がったまま俺の怒りに触れた蝋留めの破片達は、断末魔のように悲惨な赤色を生々しく床に塗り広げた。
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