マーク・オースティン

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支度を整えてマークと車に乗り込んだ後も続く沈黙に、気遣った運転手が運転席と後部座席の間にあるパーテーションを下げる。ピッタリと窓にカーテンが施されて密閉された空間でシートに身を預けた俺は、今まで入手してきた情報を整理する。 俺の祖父がカジノ建設の為に、を一掃した。その村は、我々(コーザノストラ)とも肩を並べるマフィア、『スリザード』のボスに就くレオ・アルジャーノの出身地である。 14年前、病弱なアリーシャの影武者(ダミー)、『プラ』がグレイ家にやって来た。その事実を知るのは一握りで、彼の出元は不明。 10年前のクリスマスイブ、プラが失踪。その晩にレオ・アルジャーノから父に手紙が届き、父は俺らには言えない何らかの隠し事をした。 そして翌日のクリスマス、アリーシャと間違われたプラは殺害された。本物のアリーシャは、自ら父に進言して我が家を離れ、墓地の奥にある森でひっそりと暮らし、俺と再会して今に至る──。 そもそもダグラスに書類の捏造を依頼した琳 榮榮の飼い主が、我々グレイ家とも浅からぬ因縁があるレオ・アルジャーノという時点で、本人に確認してみる価値はあるだろう。 シートから眺める車内の天井は俺の髪色によく似たグレーで、その色をさらにくすませるほどの凶悪な思考が脳内を支配する。復讐の機会を待ち続けたこの10年は、本当に本当に長かった。そのチャンスが目の前に転がり込んできたのなら、きっとそれ以上の喜びはない。 「ボス、そろそろ目的地へ到着致します」 パーテーションの向こうから聞こえた声で上体を起こした俺は、「あぁ」と答えて窓に付けられたカーテンを開く。いつも眺めるビル群とはまた違う、活気のある街並みと大きな川が俺をガラス越しに出迎える。川の両岸は観光の船渡しが所狭しと並び、物珍しさに惹かれた人々がゆったりと川を跨ぐ穏やかな光景に溜息を吐いた俺は、今から行われる会議に襟を正して腕時計を確認した。 16時19分。 速度を緩やかに落とす車が完全に止まると、無言を貫いていたマークが「アラン」と俺の名前を一声呼ぶ。 「分かってる」 「何が?」 「……無理はしない。頭に血が上っても、一応我慢する」 まるで子供が親の言い付けを繰り返すような光景に片頬が引き攣った俺は、それだけを言い放って自動で開いたドアから逃げるように煉瓦が敷かれた地面へと足を下ろす。 「なら問題ないね……御武運を祈ってますよ、ボス」 景観を意識して洒落た建物が並ぶ中、細く建てられた酒屋の扉を開けたマークが微笑む。 「──It's a show time」 案内された扉の向こうに続く上り階段へ足を乗せた俺は、まるで舞台に上がる俳優のように彼の言葉に答える事なく後ろ手を振ると、声を潜めてその先へと進んだ。
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