終わりの夢

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終わりの夢

 どこだ、ここは……。  音も光もない漆黒の中で。天も地もなく、視界の全てが闇に覆われている。伸ばした手の先さえも見えず、自分の身体を認識することすら出来ない。  あれは――。  のっぺりとした暗黒から紫のが滲み出ている。突然の異変に息を殺しつつ注視していると、闇を溶かすように現れた紫の揺らぎは、ユラリユラリと形を変えながら濃度を増して、徐々に膨れ上がっていく。やがて中央の一点がポッと仄白く発光したかと思うと、瞬時に紫の(ほむら)と化した。燃え盛る紫炎は、いつしかぐるりと八方を取り囲み、こちらに向かって、みるみるうちに輪を縮め――我が身を包み、飲み込んだ。視界の全てが紫に染まる。熱さを感じないものの、激しくうねる炎の舌に触れたところから身体が千々に引き裂かれ、消えていく。 『――させるか!』  突如、男とも女ともつかない掠れた声が響くと、緑色に輝く異物が飛び込んできた。  き、貴様はっ……! 邪魔を、する、な……―― 『逃が、さ……なぃ……』  忌々しい声が耳の奥に張り付いた。その耳も千切れ、バラバラに分解された身体の欠片は、もう幾ばくも残っていない。最後に視力が――右の目玉が捉えたのは、粉々に砕けてもなお清浄な光を失わない、新緑色の星屑だった。
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