変われば、変わる

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変われば、変わる

「おーい、虎慈! 一緒に帰ろうぜ!」  翌春、俺たちは小学生になった。学区外に住む人はほとんどいなかったらしく、同じ幼稚園に通っていた顔のほとんどを入学式で見つけることが出来た。 「同じクラスになれなかったなぁ」  ランドセルを背負った帰り道、河川敷沿いの一本道を、小石を交互に蹴飛ばしながら進む。 「なぁ、リトルリーグに入らないか?」 「リトルリーグ?」 「ああ。そこの市営グラウンドで、毎週末練習とか試合があるんだ」  野球をやりたい、というのなら、うちの学校にも野球クラブはある。ただしクラブ活動は3年生からで、低学年は入部できない。少しでも早く始めるのなら、地域の支部単位で構成されるリトルリーグという選択肢になる。 「翔太、野球好きだっけ?」 「ヘヘヘ、まぁね。パパが“ウォリアーズ”の開幕戦チケットをもらってきてさぁ、この前の連休に観に行ったんだ……」  地元のプロ野球球団の開幕戦を観て、すっかり夢中になったらしい。特大HRをスタンドに放り込んだスター選手の活躍に興奮し、ズバズバとストライクを量産したエースピッチャーの迫力に度肝を抜かれた。そして、ファンの歓声の渦に巻かれ、こんな舞台に立ちたいと強く夢みてしまった――翔太はキラキラした瞳で熱く語る。まったく、単純なヤツめ。 「俺と一緒にリトルリーグで鍛えて、うんと強くなって、いっぱい勝ち上がってさぁ、まずは甲子園に行こうよ!」  正直、野球というスポーツそのものには興味はない。けれども――翔太が無意識にチョイスした誘い文句は、俺の背中をザワつかせた。『強くなって、勝ち上がる』――それは、忘れていた支配欲求を、下々の者を従えてのし上がっていった快感を、蠱惑的にくすぐった。 「フン……そうだなぁ」  どうせ魔王として君臨することの叶わない、退屈な世界だ。ひとつの分野に力を注いで、頂点を極めてみるのも悪くないかもしれない。 「虎慈のおばさんに、俺も一緒に頼むからさぁ!」 「それはいいよ。俺から話す」 「じゃあ?!」 「ま、他にすることもないから、付き合ってやるよ」  わあっ、と大袈裟なほど声を上げて、翔太は俺に抱き付いた。 「やめっ! 分かったから、離れろって!」  全身から喜びをダダ漏れにする友だちを両手で押し退けながら、照れ臭いようなむず痒い気持ちを感じていた。翔太といると、転生前には決して経験してこなかった感情を味わうことがある。虫ケラみたいに弱くてちっぽけな人間から、今更教えられることがあるなんて。だけど、殺戮に明け暮れていたあの頃よりも面白い。こんな日常も悪くないと……このジーニトラ様が、変わる日が来るなんてな。
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