もう一度

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もう一度

 結人達はケンタローとレイジをかわるがわる見つめた。どういうことだ。先程までここにはケンタローと結人達しかいなかった。ケンタローが思いを話したことでレイジもここに現れた…? 「そうだよな…俺のバンドにお前がいてくれたら最高だったけど…俺が悪いんだ。」 ケンタローはうなだれている。レイジはふんっと窓の方へ顔をそむけた。 なんだこの気まずい空気…。結人は困ってしまった。大山先生は浄化するって言ってたけど、こんなのどうすれば良いのだ。 「あの、歌いませんか?」 省吾が沈黙を破って唐突な提案をした。全員の視線が集まった。 「小学生の頃のことは、なかったことにできないけれど…もう一度歌って…今度はふざけずに…どうでしょうか。」 ケンタローもレイジも驚いた顔をして省吾を見つめている。 「俺、指揮者できるぜ。」 将也が言った。実は結人達の学年は昨年度「この地球に生まれて」を歌っていた。その時の指揮者は確かに将也だった。 「俺はアルトだった。省吾と由奈と綾は?」 省吾はソプラノ、由奈と綾はアルトだった。ケンタローがソプラノを歌えばいい感じに分かれる。 「おいおい、もう覚えてないぜ。ただでさえ俺は不真面目にやってたんだ。歌詞もあやふやだ。」 動揺するケンタローに綾が大丈夫!と言って音楽準備室から楽譜を持ってきた。綾は音楽委員なのだ。楽譜をしまう場所を知っていた。  結人達はさあさあ、と戸惑うロックスターとそキーボード担当になるはずだった男たちを促し舞台を整えた。  将也が右手を上げ、全員と目を合わせる。最後にピアノの方へ向きレイジと軽く頷きあって腕を大きく、しかし優しく振り上げた。  レイジのピアノはとても上手だった。ピアノを習っている結人は感心してしまった。そしてソプラノを歌うケンタローの歌声は圧倒的だった。さすがに1オクターブ下を歌っていたが、力強くて魅力ある声だった。  将也が高く掲げた右手でぐっと拳を作り、最後の音が消えた。音楽室には余韻が残った。 「レイジ、悪かった。ごめんな。」 ケンタローはレイジに向かって頭を下げた。レイジは立ち上がった。ケンタローは顔を上げずに続けた。 「あの時のことはもう、なかったことにはできない。だから、俺は今後も音楽に真摯に向き合うことで償っていくよ。」 レイジはケンタローに近づき、顔を上げさせた。 「そんなに重く取るなよ。今の歌でお前がどんな気持ちなのかはわかったよ。俺は今後のお前の活躍を楽しみにしているよ。」 「レイジ…ありがとう。」 ケンタローとレイジは光りだした。まぶしくて見ていられず結人は目を閉じた。しばらくして目を開けると、二人の姿はなかった。 「浄化…されたの…?」 由奈がつぶやいた。
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