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約束
見たくないけれど、見たい…そんな矛盾した気持ちで、拓実はトイレのドアから目を離すことができなかった。
出てきたのは…
「籠もっててごめんなさい…。」
袴を来た女の子だった。髪の毛はハーフアップにまとめており、おかっぱではない。袴と言っても華やかな現代風の柄で、去年の卒業式で見た6年生の女子が何人か着ていたものに雰囲気が似ていると拓実は思った。
「花子さん…?」
「え…花香(はなか)だよ。」
華恋の独り言のような問いかけに、普通に返事をしてくれる。拓実はすこし拍子抜けしてしまった。怖がっていた自分がアホらしくなってきた。
何だか話しにくいので、女子トイレから出てもらいすぐ前の5年2組の教室へ拓実達は花香と移動した。
なぜトイレに籠もっていたのかと尋ねられると、花香は暗い表情でポツポツと話しだした。
「私が意気地なしなの…。今日は卒業式だから…賢介(けんすけ)に告白しようって心を決めてきたの。それで、賢介に『式の後、記念碑の前で待ってて』って伝えたの。」
きゃーっと盛り上がる凛奈、陽菜、華恋女子チーム。拓実はいまいち誰それが好きだという話には興味が持てず、ふうんと相槌を打ったたけだった。花香は盛り上がる女子達に、「違う違う」と言うようにぶんぶんと手を振って続けた。
「でも…やっぱり恥ずかしくなって行けなくて…。トイレに隠れちゃって、私が帰る頃にはもう殆ど人がいなくて、もちろん記念碑のところに賢介はいなかった。」
ああ…とため息とも感嘆とも捉えられる声をガールズは漏らした。花香は俯いてしまった。
「きっと賢介は待っててくれたと思う。それなのに、私は行かなかった。酷いことをしてしまった…。」
涙目の花香を女子三人は慰める。どうしたものかと拓実は藍紀の顔を見た。藍紀も拓実の顔を見た。お互い首を傾げて、相手も自分と同じ気持ちだと悟っただけだった。要するに、どうすればよいかわからない。
大山先生は浄化してほしいと言っていたが、こんな後悔どうすればいいのだ。陽菜達は慰めているが、花香の気持ちが変化した様子はないし、状況を打開できていない。
拓実が軽くため息をついた、その時だ。廊下で足音がした。
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