第4話

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第4話

「あ、ちぇ、もう、こんな時間か…」  陽介は何かに気づいて、そう不満そうに呟く。じゃあ、これが最後の射精だ。と朧げに思う。や、やっと、終わる…。さっきからずっと、僕のナカで、放たれる陽介の精は、お腹が苦しいほど、いっぱいになっている。ノットで塞がれているにも関わらず、だらだらと陽介の精液は絶えず溢れ出ている。ぐぐ、とさらに奥に埋め込まれ、しっかりマーキングをするようにしてから、ゆっくりと彼のアルファは僕から抜かれる。 「ひゃ、あ…っん」  っぽ、と音がしたと思うと、ごぷ、と恥ずかしい音がして、孔から何かがどろどろと溢れる。排泄にも似た感覚に鳥肌がたち、淡く喘いでしまう。陽介は、む、と情事のにおいを纏う陰茎を僕の口元に運ぶ。朦朧とする身体でそれを握り、口に入れる。大きくて、僕の口には全然入らないが、先端に吸い付き、残った精子を飲み込む。ちゅ、ちゅ、と繰り返し、ちらりと彼を見上げると、いやらしい雄の顔で僕を見下ろしていた。また、孔から彼の子種がこぼれ落ちてしまう。 「ごめんね、なな。さすがに部活は行かないとまずくてさ。そんな物欲しそうに見ないで」  汗と精液でべとついた髪の毛を優しくかきあげて、頬に柔らかくキスを落としてくれる。 「なな、かわいい…大好き…俺の……」  最後は聞こえなかった。ん、と軽く首を傾げるが、彼は優しく微笑んで、唇を吸って、離れていく。僕のカバンから、オレンジ色のタオルを引き出すと、自分の身体を拭う。そして、僕に渡す。ありがとう、と受け取ると、次は台所からホットタオルを持ってきて、丹念に僕の身体をきれいにしてくれる。ところどころ、ぴりっと痛むのは、おそらく彼に付けられた歯形だろう。毎回、発情期明けに驚くほど、身体中にはびっしりと鬱血痕と歯形がつけられているのだ。手早く身を清められ、大好きなパジャマを着させてもらう。僕はもう、うとうととしてしまい、声も出せなかった。三時間程度しか交わっていなかったが、陽介の愛撫はとてもしつこく、欲が深い。  肌触りの良い綿の掛け布団がかかると、僕は布団を引き寄せ丸まる。 「なな、また夜ね。おやすみ…」 「ん…よ、すけ…ありぁ、と…」  こめかみに温かい感触がして、僕は眠りについた。  次に僕が明確な意識を手にしたのは、翌日の朝だった。すこぶる調子は良い。きっと、彼のおかげだ。  僕を後ろから抱きしめながら可愛い寝息を立てている陽介の腕に触れる。はっきりとはしていないが、夜中、彼にまた攻め立てられた記憶がある。意識をしてしまうと、まだ孔に彼がいるような気もする。彼との情事が頭をかすめ、体温が上がってしまう。身体のあちこちがひりついている。余韻に浸っていると、遠くに見えるデジタル時計を見て、はっとする。彼は離す気がないのは、わかっているので、腕の中で身体を翻し、幼い可愛い顔で眠りにつく陽介をくすりと笑ってから、両頬を包む様に手のひらで触れる。陽介、と声をかける。ぺちぺち、と頬を叩く。 「んぅ……なな…?」 「陽介、おはよう。時間、まずいんじゃないの?」  むにゃむにゃと言いながら、時計をぼんやり見つめる。そして、また目を閉じて、僕を正面から抱きしめ直す。 「あと、五分……」 「こ、こら!そういって、この前も遅刻して怒られたって言ってたでしょ、お、起きて!」  彼は抱きしめ直してから、僕の背中を何度も撫でる。そして、背骨をたどり、双丘の割れ目に指を差し込み、昨夜も使い込んだ孔を指先で撫でる。 「あっ…もう、起きてるんでしょ!陽介のすけべ!」 「いひゃいいひゃい…」  頬を思い切り、つねると彼は笑いながら謝ってきた。まだ胸がどきどきしている。昨夜の熱烈な情事のあとの朝にしては、冗談がきつい。 「なな、おはよ…」 「ん…」  とろける様な微笑みを遠慮もなく見せてから、柔く唇をあわせる。発情期を共にしてしまうと、こんな恋人同士のような真似事もしてしまうからいけない。そうわかっていても、この甘やかな空気に流されてしまう。陽介が、錯覚してくれているうちは、付き合わせてもらおうと少し図々しい気持ちを持つ。  時間がぎりぎりらしく、それからの陽介は慌ただしかった。急いでシャワーを浴びて、ジャージに着替えた。その間僕は、調子が良いはずの身体を起こそうとすると、なんとも腰に違和感があり、立ち上がると膝が笑ってしまう。すとん、とベットに座り、原因を考えようとして、やめた。そんなことはすぐに思いついてしまったからだ。 「じゃ、なな、また明日な」 「ん、いつも部活忙しいのに、ごめんね」  眉を下げて笑うと陽介も眉を下げて笑った。大きいスポーツバックを背負ったまま、僕の目の前まできて、頬を撫でてくれる。その温度に安心して、頬を擦り寄せてしまう。 「謝る必要なんてないのに…。まだ俺の好きが伝わらないの?」 「はは、ありがとう」  子供っぽく言う陽介が可愛くて、笑って礼を言う。少し残念そうな顔をした陽介には気づかなかった。  じゃあね、と言う彼に軽くキスをして、いってらっしゃいと微笑む。ガチャ、とドアが閉まり、オートロックがかかる音がした。  二人の優しい友人のおかげで、発情期三日目とは思えないクリアな視界だ。  ちゃんと、生きよう!と気合いを入れて立ち上がり、風呂に入る。熱いシャワーはとても心地よいが、身体のあちこちがひりひりと痛んだ。その度に、陽介の体温を思い出して身体が火照るが、シャワーのせいにした。躊躇ったが、後ろに手を伸ばし、孔の中も軽く洗った。ぼとぼと、と陽介の残滓がたくさん出てきて、その度に息が漏れる。身体には充分に吸収されたので、流してしまう。  これは、僕のオメガの呪いを忘れさせるために、彼らが人より持っているものを少し、分けてくれているだけだ。それに、甘い関係性を勘違いしてはならない。  風呂から上がり、ソファに座って、陽介の香りが残るオレンジ色のタオルを抱きしめながら、うたた寝をしていると、いつの間にか時間が過ぎ、秀一がやってきた。ソファで、うたた寝している僕に気がつくと、微笑んで近づいてきた。 「なな、ただいま」 「んぅ……お、かえり…秀一…」  唇を甘く重ねて、ただいま、と言われると、なんだかくすぐったい。ぽやぽやしていた目を擦って、体勢を直すと、握りしめていたオレンジ色のタオルを取り上げられて、昨日の朝、秀一が使った青色のタオルを渡される。なぜだろうと眠い頭で思ってから、タオルを嗅ぐと秀一の匂いがして安心する。  そのまま、秀一は台所に行き、がさがさと音を立てている。 「どうせロクなもん食べてないだろ?」  そう言われると確かに食べていない。曖昧な記憶の中で、エネルギー補給系のゼリーを口にした覚えはある気がした。ぐう、とお腹が鳴る。しばらくすると、包丁の小気味いい音がして、くつくつ、と鍋の煮える優しい音がする。ほやほや、と心を温めるいい匂いがしてくる。  ソファに座り直し、腹部をさする。胃はきゅう、とまた鳴く。その下の方を撫でる。ここでは、今、どんなことが起きているのだろうか。二人の違うアルファの遺伝子をたっぷりと注がれ、僕のオメガはどんな反応をしているのだろうか。僕の卵子はどんな風に喜んでいるのだろうか。でも、それらは残念ながら出会い結ばれ、実となることはない。なぜなら、意識が朦朧としながらも避妊薬だけは必ず投薬しているからだ。世の中のオメガの半分以上が望まない出産をしており、その子供たちは苦しい一生を迎える。そんな被害者は出してはならないということだけは頑なに僕の中にある。これが、オメガとしてアルファを受け入れる僕の、人間としての理性だ。もっと言えば、この優しい友人たちに甘えきっている僕の欠かしてはいけない習慣だ。きっと二人の子供を授かったら。優しい人たちだ、責任を感じて、僕と子供を引き取ってくれるだろう。でも、それは一生が関わることだし、彼らの足枷となるような重荷には絶対になってはならない。  さすっていた手をぐ、と握る。 「おまたせ」  秀一の声に顔をあげると、トレーいっぱいに小鉢などを乗せた立派な和食一式が目の前に置かれる。 「ご、ごめんっ、何も手伝えなくて」 「いいんだよ、お姫様」  頭をくしゃと掻き乱されると、急に甘やかされすぎている自覚がわいて、頬が染まる。髪の毛を整えるふりをして、誤魔化した。  秀一が自分の分も持ってきて、並んで手を合わせて食事をする。 「おいっ、し〜…」  味噌汁が、きちんと出汁が出ていて、身体の隅から隅まで染み渡る。じぃん、と身体の奥まで温まる。秀一が横からまなじりを下げながら、うまいか?と聞いてくる。それに全力でおいしい!と答える。 「秀一はいい嫁になるな〜」 「いつになったら、もらってもらえるのやら、な」 「え〜?秀一なら即日即完でしょ〜」  この煮魚も美味しい。なんでこんな短時間で美味しいものが作れるのか、永遠の謎かもしれない。もぐもぐと嬉々として食を進める僕を見て、秀一は呆れた様に笑った。  お腹いっぱいに秀一の手料理を食べて、片付けをしようとするが、手早く食器を奪われて、甘やかされてしまった。  ふらふらとベットに戻り、倒れ込む。近くにあるこの前の秀一のくれたシャツをかき集める。青色のタオルも手元に寄せ、深く息を吸うと秀一の匂いに包まれて安心する。もっと、欲しい。頭がぼんやりしてくるのを感じて、あ、くる…とわかった時には、呼吸が苦しくなってきた。秀一の匂いに包まれながら、ズボンをずり下ろし、やわやわと性器を握る。すんすん、と息をすると、鼻から甘い匂いが、脳の奥を刺激して、性器に直結するようにだんだんと芯を持ち始める。 「かわいい巣だな」  ぎ、とベットが鳴ると、目の前がやや晴れ秀一が周りのシャツを退かし、覗き込んできていた。 「しゅ、ぃち…」  本物だ、と抱きつくと、先に始めるなよ、と耳たぶを甘噛みされて、吐息が漏れてしまう。 「ななは、三日目が一番つらいもんな」  パジャマのボタンを丁寧に一個ずつはずされながら、何度もうなずく。その丁寧さが今はお預けを食らっているようで、もの苦しく思われる。早く、と急かしてしまいたくなるのを唇を噛んで堪える。 「俺が、助けてやるからな」 「んぅっ…」  下から唇を押し上げるように塞がれ、熱い舌が割り込んでくる。気持ちいい…。かすむ世界の中で、僕は秀一にしがみついた。
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