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私が机にしまいかけていた二つ折りの紙を見つけて、夏奈はにやりとした。見つかる前に隠そうとしたが遅かったか。
「ほんと、かわいいよねえ」
「うるさいなあ」
ちらちらと私と榊原くんを交互に見てにやにやとしている。
彼はまだ眠そうで、夏奈の視線には気付いていなさそうだ。よかった。
「ほら、はやく座りなって。ホームルーム始まるよ」
「あら座っちゃっていいの?」
「いいに決まってるでしょ」
ようやく夏奈は自分の席についた。口元には楽しそうな笑みがかすかに残っている。
小さくため息をついて、私はスタンプに蓋をする。さっき押し込んだスタンプシートが机の中でかさりと音を立てた。
「順調?」
「うん。半分越えた」
「お、いいペースじゃん。二次関数のグラフ並みだね」
「理系脳すぎてよくわかんない」
私の言葉は無視して、夏奈は満足げに頷いた。私以外に彼女だけがこのスタンプの意味を知っている。
夏奈はこちらにぐいと顔を寄せて、声を潜めた。
「はやく恋できるといいね」
全力にやにや顔を片手で振り払うと、チャイムが鳴った。扉が開いて担任が教室へ入ってくる。
ホームルームの最中、私はちらりと隣を見た。
夏奈の横顔の向こうにいる彼。榊原くん。
私は、彼に恋がしたい。
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