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 気付けば全体の四分の三あたりまでスタンプが敷き詰められていた。一日に何個か押すときもあるので思ったよりマス目が埋まるスピードが速い。  もうすぐ完成だ、という気持ちとともに、どこか焦りのような気持ちもあった。 「どうしたの、都子」 「え、なにが?」 「三平方の定理でも考えてるような顔してたから」 「理系脳だねえ夏奈は。でもそんな簡単な問題じゃないよ」 「ウソでしょ。あの三平方の定理を雑魚扱いって。あ、じゃあもしかして帰納法?」  夏奈は首を傾げる。  残念ながらこれはもっと文系的な話だ。 「答えがあるのかないのかわかんないって話よ」 「あー『解なし』ってこと? 答え出すために頑張って計算してたのに『解なし』って冷めるよね」 「いや知らんけど」  私は手元のスタンプシートを見つめた。  もうすぐ私の心は赤色で埋め尽くされる。もうすぐ、私は彼に恋をする。  そのはずなのに、私の気持ちは何ひとつ変わっていないのだ。  榊原くんは今日も素敵だった。その気持ちは間違いなくここにある。  けれどそれが膨らんでいるかといえば頷くことはできない。日々積もり積もっていくスタンプのように、私の気持ちもどんどん高まっていくものだと思ってたのに。  このままじゃマス目の埋まるスピードに私の心が取り残されてしまう。  定義付けが間違ってたんだろうか。  百個じゃ足りなかった? いやでも、それなら。  いくつ彼の好きなところを見つければ、私は恋をしてるって言えるんだろう。
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