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あ、かわいい。
朝の予鈴で目覚めた榊原くんは大きく口を開けて欠伸をした。
ふたつ隣の席に座る彼の頬にえくぼを見つけて私は口元を緩める。
彼はまだ覚醒していないらしく目元はとろんとして覇気がない。机で突っ伏して眠っていたせいで額には薄く跡がついていた。前髪も数本変な方向にはねている。
こんなに騒がしい教室でよく眠れるなあと思いつつ、机の中から二つ折りになった紙を取り出す。それから筆箱の中のスタンプのキャップを開けた。
開いた紙にはマス目が印刷されており、その半分以上が赤い丸印で埋められている。ずらりと並ぶ赤インキの最後尾に、私はスタンプを押した。
とん、と天板に触れたスタンプが音を立て、新しい赤い丸印を白いマス目に乗せる。
そうして今日もまたひとつ、私は自分の気持ちを積み上げていく。
「おっはよー」
軽やかな声とともに、私と榊原くんの間、つまり私の隣の席に鞄が置かれた。計ったかのように彼女はいつも予鈴直後に教室に入ってくる。
「おはよ、夏奈」
「や、今日もかわいいねえ都子は。……お」
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