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終章
なぁあんた、知ってるか?
この倭国には、命を操る死神が住んでるんだと。
いつぞやにも立ち寄った馴染みの茶屋でかかる噺は、死神がよくよく知ったものだった。
とはいえ、原型こそ同じであれども「さげ」が違っていくのが倭国の語り芸だ。主軸の噺は型に沿えども、最後の結末は噺家独自の色を出す。
この噺家の結末は果たしてどんなものだろうか。死神はそれを楽しみに噺を聞く。
お前さん、死神を騙そうったぁ太ぇ野郎だ。
そんなことができると思ってんのかい?
客が噺に飲まれるさまを見ながら、死神は少し視界を切り替える。辺り一面、命の蝋燭に囲まれた中でひとりの男が語り続けている。様々な火が揺らぐ中で聞く噺が好きだった。
そこで、意識の片隅にちらりと蝋燭の火が揺らぐ。風に吹かれたわけでもなく揺らいだその火はふつりと消え、細い煙が残される。
死神は静かに後方の席を立った。懐から煙管を取り出す。
(――さて。行こうか)
煙管から細い煙が立ち上った。
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