第三章 ふたりの賢者

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 澄ました顔で、少女の淹れた茶に魔女は口をつけた。死神もそれに倣う。そして、少々眉をひそめた。世辞にもうまいとは言い難い、なんとも形容しがたい味だった。香りが飛んでいるせいか、温度が低いせいか、いろいろと指摘することはできそうだが言葉にしなかった。 「あの子は記憶が飛んでいる。ブラウニーとしても、人としても。あの子ができることが一体どれだけ残っているか、私もまだ分かっていないよ」 「それはそれは」  かの妖精――屋敷手伝いをするブラウニーという種らしい――が、定命を覆し長い生を与えてくれと望んだ相手は、病床に伏していた余命幾ばくもない少女だった。  それが、彼女だ。名を尋ねることはしなかったが、そもそも名を覚えてもいないかもしれない。  魔女の声音にどこか後悔のような色を見て、いささか不可解さを声音に乗せる。 「きみは分かってただろ?」  魔女が少女の定命を覆す対価として、ブラウニーの定命を幾分か利用し操ったのは死神も視ている。  その結果引き起こされた副作用が、今少女の身に降り掛かっていることだ。  後天的に創り出された、人と妖精の混じり仔。 「責任でも取ったつもり?」 「ここに居たいと言うから住まわせているだけだ。辺りのモノたちと何も変わらん」  実際には、他に生きられる場所もないのだろう。魔術を扱わない人間には彼女が見えるかどうかも怪しいところだ。 「人がいいねぇ」 「お前とは違ってな」  そう、魔女はうまくもない茶に口をつける。 「そういえば、そろそろみたいだけど」
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