第三章 ふたりの賢者

7/7
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
 何を、と死神は明言を避けた。それでも彼女には十分に伝わっていることだろう。己に根ざす魔術の話だ。分からぬはずもないだろう。 「望みがあるなら聞くけども?」 「お前に頼むことなど何もないよ」  昔から彼女は変わることがない。立ちふるまいも、その理想も、己の命の使い方も。 「――ここにいるものも、皆分かっている」 「あの子も?」 「あぁ。ここへ迷い込んできたものには、皆同じ話をしているからな」 「僕は聞いてないけどなぁ」 「言う必要もないだろう」  相変わらず冷たいね、と軽口を叩きながら、死神は煙管をふかした。 「――ま、あとの始末くらいはやってあげるよ。同じ賢者のよしみだからね」  ごちそうさま、と言葉を残して、死神はいつかと同じようにふらりと姿を消す。  応接間の扉が開き、お茶のおかわりを持ってきた少女が首を傾げた。 
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!