1.第一の呪い

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1.第一の呪い

 六月十日。月曜日。午後五時  学年主任の大西智子は自分の軽自動車を運転して八王子北警察署へと向かっていた。  ――女子生徒が事件か事故に巻き込まれた可能性があり、身元のわかる人に誰か来て欲しいという電話があったのだ。 「なんであたしが呼ばれなきゃならないのよ! もうっ!」  と、信号で停まるたびに、そんな言葉が口をついた。独り言だった。  中学校は杉並区内にあり、いかに放課後とはいえ、そんな遠方で何かしていたとは考えにくかった。運転をしながらも、先方から何を言われるのだろう? 何があったのだろう? そして自分は何をしているのだろう? と、色んな想いが胸の奥から次から次へと湧いて出ては消えて行った。  こんな目に遭うのは、ひとえに元の担任だった早川俊樹がゴールデンウィーク明けに休職を申し出たからだった。――もっと早く。例えば前年度の三学期末を持って休職と言うことであれば、四月一日付で新しい教師が配属されていただろう。自分がこんな時間に遠く離れた警察署に呼ばれることもなかったはずだ。  タイミングが悪すぎた。
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