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「おー浅野くんこっちこっち!おはよ!」
「おはよう。ごめん、待たせたかな」
彼女の手招くテーブル席の向かい側に僕が座ると、「ううん」と彼女はアイスコーヒーを置いた。
「浅野くんは時間ジャストだよ。流石〜。私の方が待ちきれなくて、早めに来てただけ」
確かに汗をかき始めているグラスには、コーヒーが半分程度しか残っていない。よほど楽しみだったんだな。
僕もアイスコーヒーを頼んでから、彼女は早速本題に乗り出した。
「まずね、一番大事な『曲』について話したいんだけど」
「そうだね」
「取りあえず私、浅野くんの過去のライブの音源とか聴いてみたの」
「よく残ってたね、そんなの」
去年の文化祭で恩田達に引っ張り出された僕は、確かにステージ企画で、いちバンドとしてオリジナル曲を弾いた。が、どこのどいつだ録音してたやつ。あと彼女に情報提供したやつ。
「はっきり言って、超〜~〜~〜どストライクだった!!」
「……そう」
急にテンションが爆上がり中の彼女に一定の温度で反応を返したら、なぜか彼女は少し不満そうに眉をひそめる。
「ほんとに、心から凄いって思ったんだからね!あれ聴いて、改めて浅野くんの曲じゃなきゃ駄目だって思ったんだから」
「……それは、ありがとう」
よろしい、とはにかんで、彼女はおもむろに事の詳細を語り始めた。
「来月市のふれあい企画として、音楽フェスが開かれるの」
「と、いうと」
「そのうちの、ステージ企画枠でライブをしたいんだ」
「――ごめん、コーヒー代だけ置いていくね」
「いやナチュラルに帰ろうとしないで ! ? 」
彼女があまりにも必死の顔つきで言うものだから、僕はしぶしぶ席に着きなおす。
「……規模はどの程度なの」
「ううんと、文化祭の二倍……いや、三倍くらいかな」
「それは聞いてないよ」
「うん、私言ってないから」
そこは胸を張らないでいただきたいところなんだが。
という言葉をのみ込んで、僕は小さく息を吐く。
曲を売ってほしいっていうくらいだからある程度予想はしていたけれど、これは完璧予想外だ。
彼女の熱に感化されて了承したのは早計だったか、と今さら後悔する。もう遅いのは知っている。
「……で、僕は一体どんな曲を君に差し出せばいいの」
「それなんだけどさ。『歌』よりも『音楽』メインで作ってほしいの。歌詞が少なめ、とかじゃなくて、何ていうかもっと根底から、音楽が主役であってほしいというか」
悪くはないんだよ?歌う人の歌唱力だって曲には大切な要素だって、ちゃんとわかってる。私も今まで何人も尊敬してきた。
吐き出すように一息でしゃべってから、彼女は顔を上げた。
その瞳はさっきまでとは違った意味で輝いていて、心が、自然と背筋をのばすようだった。
「私が音楽やりたいって思ったきっかけは、やっぱり『音楽』そのものの良さに触れたからだから。すごく勝手な意見だけど、でも私的にはやっぱり、音楽がメインであってほしいなって」
「なるほど」
「あくまで私の意見だから。浅野くんがこうしたい、って思ったまんまを、私に預けてほしいの」
預ける、か。
背中合わせでそれぞれの前を向くような、よくある構図が浮かんできて思わず笑みがこぼれる。
不特定多数に、今まで趣味の範囲で曲を作っていた僕の、たぶんこれまでで最高の音楽を聴かせる。
どう想像したって彼女が輝いている姿しか浮かんでこないのは、きっとそれが本当になるとわかってるからだ。
武者震いするこぶしを握りしめ、僕は構想してきていた曲のイメージを彼女に打ち明け出した――。
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